
米中関係は常に緊張が続いているが、反中感情はかつてなく高まっている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでサプライチェーンが断絶されたことで、米国企業の中国離れが進み始めた。中国に代わる存在として注目を浴びるのが、インドである。ただし、中国から完全に撤退する必要はない。筆者は、「チャイナ・プラスワン」を実践すべきだと主張する。
世界最大の人口を持つ2つの国、中国とインド。この両国と米国との関係は、明白で急激な、そしておそらく永続的な変化を遂げようとしている。
2020年4月のピュー・リサーチ・センターによるアンケート調査によれば、米国人の3分の2は中国に対して「好ましくない」と感じている。これは「当研究所が2005年にこの質問を開始して以来の、同国に対する最もネガティブな評価」であるという。
では、中国の魅力度が下がっているならば、その地位に取って代わるのはどこだろうか。
答えはインドと思われる。上記の調査結果をピュー研究所が発表した同日、フェイスブックはインド最大の通信会社ジオ(リライアンス傘下)に57億ドルを投資したと発表。ジオの時価総額は瞬く間に、独立事業体としてはインドでトップ5に入るまでになった。
この投資が行われたタイミングは、カリフォルニア州とインドがともにコロナ禍を受けての屋内退避命令とロックダウンを実施している最中であったため、世界中のビジネスリーダーと市場関係者を驚かせた。大手上場2社間の国際契約には通常、たび重なる往来、対面でのやり取り、共同で公の場に姿を見せることが求められる。しかしリライアンスのムケシュ・アンバニ会長は、この重大な発表を自宅から単独で行った。
フェイスブックとジオの契約は、デジタル主導の部分が大きい。とはいえ、2020年は米国とインドの2国間物品貿易においても転換点となるかもしれない。この変化の(少なくとも一部の)要因として、コロナ禍によるストレス、そしてトランプ政権による中国品への関税がある。
筆者らは以前、製造拠点としてのインドの魅力についてHBRに論考を書いたが、その後は、中国からの輸入を部分的に代替する物品調達パートナーとしてのインドに注目している。
中国離れ
中国からの物資の流れがパンデミックによって中断されたため、米国、カナダ、欧州、オーストラリアの企業は、サプライチェーンショックに見舞われた。CEOらは自社のサプライチェーン担当チームに対し、中国とは完全に別の調達源を新たに開拓するよう内々に求めている。
加えて、米国では次のような圧力が働いている。従業員は中国への渡航を警戒し、顧客は中国産の食品や物品の安全性に懸念を抱き(それが合理的か否かはともかく)、投資家はどこであれ一つの国への過剰な依存を強く憂慮し、政治家と米国国務省の首脳陣は企業に早々の脱中国を望んでいる。
20年以上前、台湾の電機企業たちが先頭を切って、中国本土に生産をシフトした。しかしいま、コロナ禍を受けて「電機メーカーの段階的な中国離れは、もう後戻りできないところまで来ている」と「ブルームバーグ」は2020年3月に報じた。
中国でガラス大手のフーヤオ・ガラス・インダストリー(福耀玻璃工業集団)を率いる億万長者の曹徳旺も、パンデミックへの反応について同様の考えを示し、「世界の産業チェーンは中国への依存を減らすだろう」と述べている。