チャイナ・プラスワン
インドからの調達は、どう進めればよいだろうか。
筆者らが推奨したいのは、インドのサプライヤーを少しずつ招き入れる、「チャイナ・プラスワン」と呼べるアプローチである。中国の拠点を維持しつつ、インドで試行できる低リスクまたは高リターンの案件を慎重に選ぶのだ。
始動に際しては複数のインド側パートナーと協業するとよい。ごく短期間のうちに、微調整して成果を拡大できるようになるだろう。
中国でうまくやるために学んだことが、インドでは通用しない可能性があるため、最初は謙虚さと好奇心を持ってインドに歩み寄ることが重要だ。インド人は米国とその文化が大好きだが、米国的傲慢さを感じさせる物事に対しては強く反応する。
ナレンドラ・モディ首相はビジネスのやりやすさの向上に取り組んでいるものの、インドではいまだに、土地と労働をめぐる慣行が障壁をもたらす。自前の工場を建てたいと望む外国企業は、そうした要因によって失望させられる場合もある。
とはいえ、大方の米国企業がそれらの困難を克服できる方法を、以下にいくつか挙げよう。
第1に、ほとんどの米国企業はインドを調達先として活用するにあたり、土地と建物に投資する必要はなく、現地で従業員を雇う必要もない。筆者らの経験では、まずは投資者よりも買い手として始めるのが最善である場合が多い。そのほうがより多くの柔軟性、経費削減、初期のリスクの抑制につながる。
第2に、連邦制のインドは多様性に富む国であることを肝に銘じておこう。産業に影響する規則の多くは、州によってまちまちである。インド28州の中には、現地および世界の起業家を熱心に後押しする州もあれば、そうでないところもある。
アンドラプラデシュ、グジャラート、カルナータカ、マハラシュトラ、タミルナード、テランガナの諸州は一般的に、現地企業とグローバル企業に友好的といわれる。しかし、特定の産業と分野については、デューデリジェンスさえ実施すれば、上記以外の州でビジネスをしても問題ない。
筆者らの一人(バグラ)がクライアント企業をうまく引き入れた事例として、ウッタルプラデシュ州における絨毯などの高級敷物の事業、ヒマラヤ山麓のヒマチャルプラデシュ州およびウッタラカンド州におけるパーソナルケア製品と消費者向け健康製品の事業などがある。
第3に、ご存知のように、対中ビジネスでは通訳が必要だが、インド人の場合は英語を話すものの、インドとのビジネスでは「文化通訳者」と「ビジネス案内人」の助けが必要となる。米国商務省は米国企業によるインドへの売り込みをあと押ししているとはいえ、インドからの調達を望む企業に案内を提供する態勢は整えていない。
自社内に、現在のインドと最近ビジネスをした経験の持ち主がいれば理想だ(単にインド系というだけの社員ではなく)。そうでなければ、米印間ビジネスを専門とする外部の信頼できる助言者に頼るとよい。
最後に、インドは混乱に満ちた民主主義国であり、物品の流通はいまだに困難な場合があることを受け入れよう。インドからの調達を成功させるには、時間と忍耐を要する。
とはいえ、USISPFのムケシュ・アギは楽観的だ。「新しい道路ができ、港湾が広くなり、空港が拡張されるにつれて、物流はもっと効率的になるでしょう」。それまでの間は、インド企業の強い野心と、諸々の複雑さを海外顧客の目から覆い隠す手腕を、彼らがたびたび発揮する様子が見られるかもしれない。
今日、インドはほとんどの分野で100%の海外直接投資を容認しており、米国企業は知的財産や企業秘密を現地の協業相手と共有しなくてもよい。インドに数十年前から工場を持つ米国企業は多くあり、最近投資した企業もある。アムウェイが1億ドルを投じたタミルナードの工場などが一例だ。
「中国への依存の大きさを考えれば、米国の需要にうまく応えるだけの規模、能力、場所を持ちうる代替国はインドしかない」――米国の某大手小売企業でアジアに目を向ける最高幹部が、こう述べた通りである。
HBR.org原文:As Covid-19 Disrupts Global Supply Chains, Will Companies Turn to India? May 25, 2020.
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