ジェネシス・ヘルス・システムは、5つの病院と1つの地域医療センターからなる医療法人だ。3年前、ジェネシスは赤字経営だった。ジェネシスだけではない。多くの病院は、2008年の金融危機以降で最悪の決算を発表していた。それだけに、職場で幸福について語るリーダーは皆無に近かった。

 グループ最大の医療センターである、ジェネシス・メディカル・センター・ダベンポート病院のジョーダン・ボイト院長は、頭を抱えていた。ボイトはもっとポジティブな文化をつくりたがったが、近く2度にわたる大掛かりな経費削減とレイオフ(一時解雇)を計画していたからだ。スタッフにはすでに、労働時間を減らしたり、一時帰休を取得したりすること(有給休暇がなくても)を推奨していた。

 それでもボイトは、企業文化に力を入れることは重要であり、ポジティブな姿勢が、ここぞというときの助けになるかもしれないと考えた。そこで筆者らが協力して、ポジティブな心理を喚起するための介入法を部門別に設計した。ただし、こうした介入を行わないグループも設けて、その効果を調べられるようにした。

 具体的な介入措置は、各部門のサブ・カルチャーに合わせて設計され、感謝を表明する練習や、マネジャーによる称賛の機会の増加、チーム全体で親切な行動を意識的に増やすなどの工夫がなされた。

 また、ポジティブな変化を象徴する色として「オレンジ」が採用された。たとえば一部の部門では、スタッフが休暇から戻ってくる日に、同僚たちがオフィスをオレンジ色のポストイットで埋め尽くした。それぞれに感謝のメッセージが書かれている。組織行動部門のスタッフは、オオカバマダラ(オレンジ色の蝶)の幼虫を購入して病院の全部門に配り、サナギが羽化すると、変化の象徴として一斉に放した。

 産婦人科では、母親が出産すると、兄や姉になった子どもたちに「スパーク」という名前のオレンジ色の蛙のぬいぐるみをプレゼントした。スパークは、この部門の思いやりを象徴するマスコットだ。親切な行動で幸せな雰囲気をつくったスタッフには、スパーク賞が贈られた。オレンジ色のヘアキャップや、オレンジ色の酸素カートを備えている部門もある。

 さらに各部門のリーダーとスタッフは、もっと幸福を感じられる職場にするために、既存のルーチンを変更する案を検討することになった。ミーティングの最初にポジティブなことを3つ話すとか、称賛や表彰をする制度をつくるといった工夫である。こうしたアイデアを実践して、その部門がどのように挫折を経験するかをリアルタイムで測定した。

 筆者らは、幸福な感情が生む効果を研究してきたので、介入措置が取られた部門は、そうでない部門よりもよい結果を出すだろうと予測はしていた。だが、そのレベルの大きさには、私たちも驚いた。

 ポジテイブな介入を経験したことがないスタッフの間では、「職場で楽観的な見方を強く表明する」と答えた人は23%にすぎなかったが、ポジティブ心理学を文化として根づかせる研修に参加したあと(厳密には6週間後)は40%に跳ね上がった。大掛かりな組織変革が行われているときでも、職場で幸福を感じると答えた人の割合は、43%から62%に上昇した。

 一方、「頻繁に」燃え尽きたと感じる人は、11%から9%に下がった。また、「職場で大きなストレス」を感じると答える人は、ポジティブ思考を養う研修を受けたあとでは3割も減った。

 スタッフ間の絆も改善した。「職場で仲間とのつながりを感じる」と答えた人の割合は、研修後は68%から85%に上昇した。しかもこれは、人員削減により、仕事仲間や友人の一部を失ってから示された結果だ。

 介入措置が行われなかった部門では、ジェネシスが正しい方向に向かっていると思うと答えたスタッフは37%しかいなかったが、研修を受けた部門では63%に上った。あなたの会社が非常に困難な時期にあっても、会社が正しい方向に向かっていると考えるスタッフを2倍に増す方法があるのだと、思い描いてみてほしい。

 なぜ、この手法が効果的なのか。そこから何が学べるのか。ポジティブ心理学の介入措置がパフォーマンスを改善することについては過去の論文に書いたので、ここでは繰り返さないことにする。本稿では、会話を始める方法を知りたいリーダーのために、4つのカギを紹介しよう。