●トップが模範を示す
日頃から、「ポジティブ・マインドセットが大切だ」「人にこそ価値がある」と言うくせに、ポジティブ・リーダーシップ研修には多忙を理由に参加しないリーダーは少なくない。このような態度は、「実のところ、ポジティブ文化の優先度はさほど高くない」という印象を組織全体に与えてしまう。
ボイトは医療センターのトップとして、すべての研修の開会宣言をした。また、各研修のデータをチェックして、どんなワークショップに効果があり、どれを続けるべきかを判断した。さらに、幸福だと感じられることが最も需要だと強調することで、それがスタッフにもしっかり伝わるようにした。
これは、困難な時期にもポジティブ・マインドセットを構築したいリーダーが取るべき第一歩だ。みずから足を運び、そのマインドセットの模範を示すべきである。
●スタッフに変革を要求する前に、スタッフ間のつながりを支援する
人間は一人で、あるいは孤立した状態では、ポジティブな変化を起こさないものだ。職場におけるポジティブ・マインドセットは、グループ活動の産物であることが多い。グループでやると、ポジティブな行動や態度が補強されるからだ。
ジェネシスの研修では、グループでポジティブな習慣をつくり、新しいルーチンを考案し、文化を話し合うことに重点が置かれた。これにより参加者は、新しいマインドセットやルーチンや仕事のやり方について、当事者意識を持つことができた。
その研修は、新しい社会的ストーリーをリアルタイムにつくり、さまざまな変革をパーパスと結びつけて、スタッフの幸せそうでポジティブな言動が患者に与えうる大きなインパクトを言葉にする場となった。スタッフがお互いとのつながりを感じられるようにし、そのうえで彼らをポジティブな変革を実行する使者にすることがきわめて重要だ。
●変革を仕事のルーチンにする
リーダーは、「心配しないで、幸せになれ」と号令をかけるだけではいけない。
部下たちと協力して、ポジティブな考え方を補強するパターンをつくろう。ストレスのまっただ中では、ポジティブになるための新しい方法を考案するのは難しい。そのため新たに知恵を絞らなくても、既存のポジティブな雰囲気を維持できるようなパターンをつくろう。さまざまな祝い事をルーチン化するといったシンプルなことでもいい。
ジェネシスの場合、内視鏡検査部は空席率が35%にも上るストレスフルな部門だったが、いまは定期的に持ち寄りの昼食会が開かれるほど和気あいあいとしている。過去半年間の空席率は0%だ。
ミーティングを開くときは、参加者それぞれが感謝していることを1つ紹介するというルーチンを設けた部門もある。感謝を表現するミニカードや、写真を貼り出せる掲示板を設置した部門もある。おかげで、そこを通りがかったスタッフや患者は、その部門のポジティブな姿勢を視覚的に感じられるようになった。
●結果を追跡して変化を持続する
これといった変化が見られない場合や、そのアプローチを正当化するデータが存在しない場合は、変革の文化を根づかせるのは容易ではないだろう。だが実際に試してみなければ、変革を維持すべきか、中断すべきかのモチベーションも生まれない。困難な時期は特に、ポジティブな介入は中断されてしまう。
それを阻止するためには、ポジティブな変革を維持するエネルギーと、望ましい結果との間に、明確なつながりがあることを示さなければならない。ジェネシスでは、調整された公開アプローチをとることにより、介入措置とその結果の噂を聞いた他の部門が、自分たちのチームでもポジティブに関する介入をやってほしいと要求するようになった。
こうした変化はいずれも、病院のスタッフにとってよかっただけではなく、患者にも恩恵をもたらした。実際、患者の入院経験満足度は、1年で2倍近く上昇した。
介入後、ジェネシス・メディカル・センター・ダベンポート病院は再び黒字化を果たし、2019年上半期の収益は事業予算を35%上回り、200万ドルの営業赤字から、800万ドルの営業黒字に転じた。2019年には、調査会社プレスゲイニーによる、全米で業績が最も改善した医療センターの一つに選ばれた。
会計年度の上半期が終わった時点で、総営業利益は1500万ドル(8.7%)増となる一方で、経費は190万ドル(1.1%)増にとどまった。2019年10月の時点で、ダベンポート病院は史上最高の総収入1億1400万ドルを達成した。それも医療業界のほとんどが、経営不振に苦しんでいたときのことだ。
あなたの会社が悲惨な状況にあっても、ポジティブなマインドセットをつくることはできる。それはスタッフと顧客の両方を助けるはずだ。
では、職場のポジティブ文化について話し合うのは、いつから始めればいいのか――。それはおそらく、いますぐだ。
HBR.org原文:What Leading with Optimism Really Looks Like, June 04, 2020.
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