(4)意思決定を強化するための組織再編を行う
伝統的に中国企業における意思決定はトップダウンで行われ、いくつもの階層での審査や承認の手続きが求められることが多かった。しかし、新型コロナウイルス危機の間には、ミドルマネジャーの役割が縮小したと、多くのリーダーが述べている。デジタル・トランスフォーメーションが加速したことにより、さまざまな業種で定型業務が自動化され始めたことの影響が大きい。
広東省に拠点を置く商業銀行の平安銀行は、「データ重視のオペレーション」を一段階高いレベルに引き上げ、組織のあり方を大きく変えた。それまでは典型的なピラミッド型の組織だったが、それをいわば「ダンベル型」の組織に転換させたのだ。具体的に言うと、デジタル・トランスフォーメーションとITを担当する上級幹部の数を増やす一方、事業が急速に拡大している中でもミドルマネジャーの数は増やさず、市場と直接向き合う現場最前線のチームは増員したのである。
そして上級幹部たちには、規模が大きくなった現場のチームを、デジタルツールとデータを活用して直接マネジメントするよう促した。それまでの「経験によるマネジメント」を中心とするやり方ではなく、「データによるマネジメント」に移行するよう求めたのだ。同社の業績は、新型コロナウイルス危機の中でも2020年4月に過去最高を記録した。
リーダーがデジタルテクノロジーを使って組織全体に直接関われるようになったことで、ミドルマネジャーはもはや、リーダーと現場を結ぶ重要な仲介者とは言えなくなった。それに対し、上級幹部は、ビジネス環境の急激な変化に素早く対応するために、戦略と方針の決定でより大きな役割を求められるようになった。
一方、地域ごとに状況が大きく異なるため、現場のチームに権限を持たせてリアルタイムで判断させるケースも増えた。現場のスタッフは顧客と近い場所にいて、その地域の法制度や状況に精通しているからだ。
乳業大手の伊利グループは、コロナ禍で経済活動が停止していた期間に、過去に例のない物流と輸送の問題に直面した。サプライチェーンを止めないために、酪農家、牛乳工場、運送会社、地方自治体、そして全国各地の取引相手と連携する必要があった。
そこで道路の通行停止、ドライバーの健康状態チェック、地域封鎖など、想定外の問題が生じた場合は、それぞれの地域で働く最前線のスタッフが、みずから適切と考える行動を取れるようにした。これにより、国内の最も不便な地域にも配送を続けることができた。
私たちが話を聞いた中国企業のリーダーたちは、このように社内の官僚体質を和らげることにより、協働と実行を加速させられると期待している。協働と実行は、迅速に大規模なイノベーションを実行するうえでカギを握る要素だ。
(5)協働のための新しい方法を見出す
望ましい変化を素早く起こすには、顧客、納入業者、監督官庁、そしてときにはライバル企業など、社外のパートナーと協働するための新しい方法が必要とされる場合が多い。
映画製作の歓喜メディア・グループは、春節(旧正月)に公開されたコメディ映画『囧媽』で莫大な損失を被りかねない状況だった。新型コロナウイルスの感染拡大により、映画館が休業したためだ。
しかしこのとき、同社はわずか1日でバイトダンス(動画投稿アプリのティックトックなどを所有する中国企業)と話をまとめ、バイトダンス傘下のプラットフォームで『囧媽』などのコンテンツを動画で配信する契約を結んだ。これにより、同社が得た収益は9100万ドル。この映画の動画再生回数は、2日間で6億回を突破した。
私たちの調査に回答したリーダーたちは、社内の組織のあり方を迅速に見直すことの重要性も指摘している。縦割り型組織の垣根を越えて、誰もが(リーダーも一般社員も)素早く行動できるプロジェクトチームを随時つくるべきだというのだ。そうやって、問題が持ち上がるそばから解決していく必要があると、リーダーたちは述べている。
大手旅行代理店のトリップドットコム・グループは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を早い段階で感じ始めた。春節の旅行シーズンに、膨大な数の人たちが旅行の予定をキャンセルしたのだ。変化し続ける状況に対処するために、IT、顧客サービス、営業、法務、財務、コミュニケーションなど、社内各部署が重要な役割を果たした。
IT部門は、新たに「ワンクリック」で手続きを完了できる仕組みを開発して、キャンセル手続きを簡略化した。営業部門は、世界中のパートナーと連携して、ユーザーからのキャンセルを受けつける方針を標準化した。コミュニケーション部門は、IT部門と緊密に協力して、最新の情報や方針が迅速にユーザーに伝わるようにした。
財務部門は、ユーザーへの返金手続きを調整した。一方、施設部門は、コロナ禍のなかで出社しなくてはならない社員の安全を確保するために尽力した。部署を越えた協働は、同社が会社の評判を傷つけることなく、新型コロナウイルス危機に対処するために不可欠だった。