(9)社員が自発的に行動する機会を用意する

 多くのリーダーが指摘したのは、自発性重視のアプローチにより、現場の社員を発掘し、モチベーションを持たせ、エンゲージメントを高めることの有効性だ。特に、社会に大きなインパクトを与えることを目指す新しい取り組みの場合、その業務を割り振られただけの社員は、自発的にその業務に携わることを希望した社員に比べて、積極性や当事者意識、モチベーションが高くないという。

 ファストフードチェーンのヤム・チャイナは、最初に感染が拡大した武漢のほとんどの店舗を休業したが、医療従事者向けにいくつかの店舗だけ営業を続けることにした。とはいえ、スタッフとその家族の中には、店に出ることを不安に感じる人たちも当然いるだろう。そこで同社は、店に出てもよいというスタッフを社内で募ることにした。

 その時点では、店を運営するのに必要なだけの人数が集まるか自信がなかった。しかし、なんと募集を告知してわずか2時間で900人ものスタッフが名乗り出た。これは、最低限必要な人数を大きく上回る人数だった。

 いくつかの企業では、デジタルテクノロジーに精通した若い社員たちが、このような自発的行動を記録した感動的な動画をティックトックなどに投稿した。これにより、チームの士気が高まり、難しい時期の重苦しいムードを和らげる効果があった。

 複数のリーダーは、今後もスタッフの自発的な参加を募って新しい取り組みを行いたいと述べた。それにより、複雑なビジネスモデルの転換、スタッフのエンゲージメントの向上、社会的インパクトを追求する活動の推進に努めようというのだ。

(10)社員がレジリエンス(再起力)をはぐくむのを支援する

 私たちが調査したリーダーの多くによれば、社員たちは極度の不安を抱き、モチベーションの落ち込みに悩まされていた。その傾向は、ミレニアル世代の社員にひときわ顕著だったようだ。

 この世代の中国の若者は、30年間にわたり目覚ましい成長を続けてきた中国経済の勢いに乗って、これまで順風満帆なキャリアを歩んできた。そうした若者たちは、自分たちの未来に暗い影が差し、親の世代ほど成長の機会を得られなくなることを恐れているのだ。

(11)社内の絆をはぐくむ

 ほぼすべてのリーダーが述べたのは、新型コロナウイルスへの対応という共通の経験を通じて、社内で寛容の精神、忍耐心、共感が高まったということだ。たとえば、リモートワーク中にビデオ会議を行った際に、自宅でカジュアルな服装をした同僚と言葉を交わし、ときには家族やペットが画面に映り込むのを見る経験をすると、同僚とのやり取りがそれまでより人間的なものになる。私たちが調べた中国企業の大半では、一緒に危機を乗り切ったチームの中で一体感と同志意識が強まると予測している。

ポスト・コロナの世界への準備

 私たちの調査で見えてきたことが、ほかにも2つある。

 第1に、市場でのシェアが大きく、財務に余力のある企業は、コロナ禍でも積極的に投資を行っていた。それにより、将来的に、余力の乏しいライバル企業に対する優位を拡大したいという思惑があるのだ。このような企業のリーダーたちは、厳しい時期に資源を抱え込もうとせず、蓄えたものを投資して、市場での競争力を強化しようとしている。

 第2に、これらのリーダーたちは、デジタル戦略を果敢に加速させ、拡大させていた。また、危機を通じて生まれた新しいスキル、慣行、姿勢を自社に定着させるための仕組みも導入している。そして、社員がコロナ禍以前の行動パターンに戻らないようにするために、かなりの規律が必要なこともよく理解して行動していた。


HBR.org原文:Lessons from Chinese Companies' Response to Covid-19, June 05, 2020.


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