(1)どのような試練に直面しているかを隠さない

 新型コロナウイルス危機にうまく対処できたと回答した中国企業のリーダーたちは、自社が置かれている状況と、あらゆる組織階層における意思決定で指針とすべき優先事項や原則について、常に最新情報を社員に知らせていた。

 そして、そのような高度な透明性と情報共有を今後も続けるつもりでいる。具体的には、リーダーみずからがより頻繁に、直接的で率直なコミュニケーションを行おうと考えているという。

 ある大手エンジニアリング・テクノロジー企業のCEOは、社員とのミーティングに臨んだ際に、自社のグローバルな研究開発拠点の一つを閉鎖すると決めた理由を問われた。その研究開発拠点は、同社の未来を象徴するものと位置づけられていたからだ。このとき、そのCEOはこう答えた。「目の前の3ヵ月間を生き抜けなければ、未来なんて来ないからです」

 もっとも、コミュニケーションの透明性を高めることは、ビジネスリーダーにとって常に簡単なこととは限らない。自分の行動が厳しく監視されているように感じると、複数のリーダーは私たちの調査に対して述べている。リーダーの振る舞いが、自社の価値観として表明されている考え方に沿っているか、社員たちが目を光らせているように思えたのだ。リーダーたちは言行を一致させる必要があったのである。

 また、リーダーが下す決定に対して、すべての社員が満足するわけではないという現実も受け入れなくてはならなかった。それでも最終的には、多くの社員が「みんなで同じ敵と戦っているのだ」という考え方をするようになり、そうした意識が不満を上回ったように見えると、リーダーたちは述べている。

(2)新しいコミュニケーション様式を採用する

 調査対象のリーダーたちによれば、感染拡大期のコミュニケーションは、直接対面する機会こそ減ったが、それ以前より個人的なものになったという。メールを避けて、音声通話ができる「ディントーク」「ウィーチャット」などのアプリや、情報共有と社員の交流を促すための社内アプリを用いるケースが増えたと回答したリーダーが多い。

 もっとも、多国籍企業のリーダーの中には、自分たちが使っているグローバルなコミュニケーション手段と、中国企業で好んで用いられているコミュニケーション手段の間に互換性がないケースがあると、指摘した人も多かった。

 驚いたことに、職場が再開されたあともビデオ会議が主な手段であり続けているという。ときには、出席者の全員が同じ建物の中にいる場合でもビデオ会議を用いることがあるとのことだ。

 私たちの調査で話を聞いたリーダーの多くは、大勢の人を同じ場所に集めて開く会議を減らし、バーチャルな会合を増やすつもりでいる。直接顔を合わせて話すより、バーチャルな会議のほうが効率的で、直接的で、ゴールがはっきりしていて、手っ取り早いと考えているためだ。

 しかし、ビデオ会議はコミュニケーションの密度が濃くなりがちで、私的な会話を交わす機会が減るという点も、大半のリーダーは理解している。そのような雑談が同僚同士の絆をはぐくむ役割を果たしてきたことは否めない。

(3)デジタル・トランスフォーメーションを加速させる

 突然の大規模な都市封鎖という、前例のない経験により、中国企業は文字通り一夜にして、完全なデジタル化への切り替えを余儀なくされた。

 ここで重要だったのは、その転換を迅速に行うことだった。新しい顧客ニーズに対応するために独創的なソリューションを編み出し、都市封鎖による障害を克服し、コストを節約する必要があった。デジタル・トランスフォーメーションの重要性を理解するまでに何年も要したであろう企業が、都市封鎖を機にデジタル化の取り組みを劇的に加速させたのだ。

 また、新型コロナウイルス危機は、それまでデジタル・プラットフォームへの移行を促すようなイノベーションに抵抗していた顧客の態度を変えさせるという、予想外の効果も生んだ。

 大手教育企業のニュー・オリエンタルは、2年前から動画配信への移行を保護者や生徒や教員に受け入れさせようとしてきたが、激しい抵抗にぶつかっていた。このテクノロジーを利用すれば、同時に100万人の生徒に教えることができる。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、動画配信の導入が急速に、そして広範に進み始めた。しかも、それまで同社がサービスを提供していなかった都市にも利用が広がった。