(6)リモートワークを正式に採用し、それが可能な体制をつくる
コロナ禍前の中国では、リモートワークはほとんど実践されておらず、それを支援する体制もあまり整っていなかった。
自宅で勤務する場合、オフィスのように朝9時から夕方5時まで働くというのは現実的でない。そこで、マネジャーたちは、(合理性のある範囲内で)一人ひとりの社員の状況や制約に応じて、多様な勤務時間を認める必要があった。
リモートワークにうまく移行できたのは、自分でモチベーションを高めることができて、成果志向の強い社員たちだった。一方、昔ながらの指揮命令型の環境のほうが居心地よく感じる社員には、リモートワークに対応するためのトレーニングが必要だった。
世界的なテクノロジー・サービス企業であるボッシュの中国部門は、「信頼」に関する新しい考え方を社内に浸透させ、マネジャーたちがリモートで業務とマネジメントを行うようにトレーニングを施した。オフィスへの滞在時間を重んじる旧態依然のモデルから、成果志向のアプローチへの移行を促したのである。
(7)生涯学習を大々的に支援する
私たちが話を聞いた企業リーダーのほとんどは、生涯学習とグロース・マインドセット(成長思考)が、未来の働き手にとってきわめて重要だと考えていた。その重要性は、仕事のオンライン化が進むことでひときわ強まりそうだ。
私たちの調査に回答した企業幹部の多くは、出張が減る一方で、コミュニケーションツールの質が向上したことで、社内で先生役を務めたり、変革のマネジメントを担ったりする役割が大きくなったと感じている。社員の能力開発や社内の方向性のすり合わせに割く時間が増えたと述べている。
ニュー・オリエンタルは、すべての社内研修をオンラインに移行させ、CEOなどの幹部が全国の研修生に対して、みずからの経験を直接伝えられるようにした。この改革は功を奏した。以前は、講師が国内各地を直接訪問するための日程調整に骨が折れた。しかし、自宅やオフィスで研修を行えるようになり、日程調整の手間が省け、研修プログラムを短期間で拡大できた。
(8)社員評価のあり方を見直す
私たちの調査への回答によれば、大半のリーダーは、新型コロナウイルス危機をきっかけに、自社の上級・中級マネジャーたちが新しい試練にどのように対処しているかを観察し、その人たちがリーダーの資質をどのくらい持ち合わせているかという暫定的な評価を下せたようだ。
コロナ禍という未曾有の危機の中で、リーダーたちは大局的な思考に集中する必要があった。そこで、日常業務は部下に委ねざるをえなかった。その結果、部下のリーダーとしての資質を――日々の業務に忙殺されてリーダーとしての能力を磨いてこなかった人物と、しっかり能力を磨いてきた人物の違いを――見極める機会が得られたのだ。
一方、現場レベルの社員の評価では、客観的な数値指標を重んじるようになったと語るリーダーが多い。セールスの電話をかけた件数、問い合わせ電話に対応した件数、ログイン時間の合計、チケットの販売点数などを重視するようになったという。スクリーン上にデータを一覧できる仕組みをつくり、デジタルデータを駆使して、スタッフの業務負担と成績を評価するようになったのだ。
ただし、日々の数値指標を追求すれば、短期的な結果を偏重するリスクがついて回る。したがって、日々の数値データばかり見るのではなく、(個別の業務と直結する度合いは低いかもしれないが)中長期の指標も重んじることが望ましい。また、不確実性が高く、変化が激しい環境では、固定的な目標に固執するのではなく、素早く目標を設定したり、柔軟に目標を調整したりすることも重要になる。