●遠ざけるのではなく、歩み寄る
羨ましいと思っている相手のために喜ぶことは難しい。なぜなら、相手のほうが自分よりも優れているという意識が強化されるからだ。
また、人は他人の成功に対して、同じような仕事をしている人ほど、あるいは近い関係の人ほど強い羨望を抱く。そうした関係性を活かすよりも、相手と距離を置いて対処することがよくある。
筆者のコーチングを受けるあるクライアントは、フォーチュン500企業で長らくバイスプレジデントを務めていた。そして最近、採用された同僚が短期間で昇進し、自分の上司になった。彼は常に自分のキャリアを新しい上司と比較し、彼女との関わりを避け、辞めることさえ考えていた。
さらに話を聞くと、彼はシニア・バイスプレジデントになりたいとも思っておらず、自分より彼女のほうがふさわしいと納得していた。羨望の原因は、会社のCEOが、自分をバイス・プレジデントよりも能力とモチベーションが低いと見なしていると、彼自身が考えているからであった。
彼は、必ずしも彼女のようになりたかったから羨んでいたのではなく、高い地位と権力を持っていると自分が見なしたソース(CEO)から、彼女が勝ち得ていた評価を切望していた。この洞察に基づき、彼女を遠ざけるのではなく自分から近づき、正直に自分の苦悩を相手に伝えることにした。
彼女は、彼が自分に不当な非難を向けるのではなく、自分の不安を打ち明けてくれた率直さと、欠点を認める強さに感謝した。彼が驚いたことに、シニア・バイスプレジデントは次のように伝えて安心させた。「私はここでのあなたの知識と経験を認めているので、辞めてもらっては困ります。2人でCEOに認められるよう助け合いましょう」
羨望の相手を、自分の目標に対する脅威としてではなく、道をともに歩む盟友として見ることは、最初は辛いかもしれない。しかし、将来の成功にとってはきわめて有益だ。どうしても自分と比較してしまう相手を避けてばかりいる人は、そうした成功者が自分を助けたいと思っていることに気づくチャンスを逃しているかもしれない。
●キャリアを一つの仕事ではなく、投資のポートフォリオのように捉える
自分の価値を仕事に置いている人は、誰かに追い越されるたびに失望するように、自分自身を設定している。しかし、キャリアを、社会に価値をもたらすために投資する時間と能力の分散ポートフォリオであると見なせば、自分が後れをとったと感じる領域があったときに、自身がリードしている領域で活躍すればよい。
フォーチュン500企業で人事部長を務めるピーターを例に挙げよう。彼はいまの仕事も会社を好きだったが、先行きに不安があった。トップパフォーマーだったものの、バイスプレジデントやその上のポスト自体が少なかったため、バイスプレジデントへの昇進を先延ばしにされていたのだ。
ピーターは焦りから、他社で出世の階段を上っている知人と自分とを常に比較していた。ただ、いまの会社は働く場所としては申し分なかったので、辞めようとは思わなかった。
自分のキャリアを一つの仕事ではなく、さまざまな活動のポートフォリオとして捉え直したピーターは、人事関係における強みを活かして、空き時間を使ってSNSでブログを書き始めた。数ヵ月後、同じ考えを持つ人と人事の専門家から、一緒にポッドキャストをやらないかという打診を受けた。
ピーターが相変わらず仕事熱心なことを認めた上司は、彼の執筆をサポートしたうえで、彼の投稿を上層部と共有し、社内評価を押し上げた。ピーターは好意的な反応に喜び、自分のキャリアを、会社にとどまるかどうかに関係なく、自分の将来価値を高め、いつまでも進化し続ける投資のポートフォリオのように捉えるようになった。
誰しも他人と自分のキャリアを比較する。比較の下方スパイラルに陥ったとき、こうした戦略で不快な時期を早めに乗り越え、羨望を力に変えよう。
HBR.org原文:The Upside of Career Envy, June 16, 2020.
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