●羨望は受け止めるが、羞恥心は回避する
他人を羨むことを自分の意志でやめることはほぼ不可能だが、羨望に続いて起こり、問題を悪化させる羞恥心はコントロールできる。一時の羨望が慢性的な問題に変わるのを防ぐには、その不快な感情を冷静に受け止めながらも、その後に続く羞恥心に飲み込まれないことが重要だ。
最近の調査によれば、人が抱く羨望の感情は、物事が起きたあとでは、起きた前と比べて弱くなる。たとえば、自分が就きたかった役職に、同僚が数週間後に昇進すると知ったときのほうが、後日その昇進を思い出したときよりも羨望を強く感じる。そして羨望に駆られた人が、「不愉快に思ったことを悔やむ」ようになると、誰もが持つ人間的な感情は、それ以上に辛い自己嫌悪や情けなさに変わっていく。
羨望はコントロールできないが、その感情を恥ずかしいと思うかどうかは、間違いなく選択できる。羨ましいと思う気持ちを根気強く受け入れ、羞恥心がもたらす負の影響を長引かせないようにすると、苦痛は徐々に薄れる。
●比較から好奇心にシフトする
比較が自滅につながるのを防ぐために、なぜその人と自分を比較してしまうのか、その理由に関心を持とう。そして、その人の成功が自分のチャンスを奪っていると考えるのではなく、その人がやってきたことから教わることがないか、前向きに研究しよう。
29年前、大学1年生だった筆者と同じ階に住んでいたクラスメイトは現在、一人は全国的なニュースネットワークのアンカーウーマン、一人は駐米中東大使、一人は世界最大のプライベートエクイティ企業でトップを務めている。それは、互いがどんな道に進むかもわからなかった10代の頃に、筆者が出会った成功者のほんの数例である。
大学卒業後、筆者は彼らとは別の職業に就いたが、時おり比較の罠に陥った。単に一時期を共有したというだけの理由で、それぞれの功績をさまざまな基準(名声、金銭、充実度)で比較したのだ。
だが筆者は、高業績を上げるリーダーに助言している通り、他人の成功は自分が劣っている証であると解釈することには限界があることを知っている。その代わりに、自己分析から外向きの好奇心にシフトすることは、自分自身で決められるのだ。
なぜ自分の経験よりも彼らの経験のほうがずっと重要だと自分は思ったのだろうかと、好奇心を持って考えたところ、彼らのやってきたことが自分の価値観や興味と重なるからだと気づいた。
そこで筆者は、エグゼクティブコーチという自分の仕事を考えたときに、彼らの経験から何を学べるかを考えた。そして、この思考プロセスを経て、メディア、エンターテインメント、外交、ベンチャーキャピタルという彼らの世界に、どのようにコーチングを導入できるかを考えるようになった。
筆者は、比較のトリガーに対する見方を自分で選択することによって、自己批判的にならずに、むしろ自分の仕事の先行きに大きな期待感を持てるようになった。そして誰もが、努力、粘り強さ、レジリエンス(再起力)と運を混ぜ合わせたそれぞれのカクテルで、予期せぬ成功を手に入れられることに気づいた。