●情報の優先順位は重要性ではなく新しさ
直感的ではないと思えるかもしれないが、私が記憶の優先順位をつける際は、最も重要な情報ではなく、最も新しい情報を優先させる。
情報を学習したらできるだけ早く記憶するほうが、別のことをしてからメモリーに追加しようとするより有益だろうと、複数の研究が示唆している。ある情報から次の情報に意識が移ると、最初に処理していた情報を記憶するためのコード化に時間がかかるからだ。
私の場合、人の顔でも事柄でも何かを覚えようとしているときに、その重要性ではなく新しさを重視することによって、より新しい詳細が長期的に頭に残りやすくなる。「これを覚えることがどのくらい重要か?」ではなく、「あとでこれを思い出すために、いまどうすればいいか?」を考えるのだ。
この習慣は、人について記憶する際に、特に役立つことがわかっている。
私は不動産業界で独立した当初、地元に130人のエージェントがいた。自分で募集して契約したプロフェッショナルだ。彼らの名前を忘れることは許されなかった。彼らには、自分が評価され、感謝されていると感じてほしかった。
私が彼らとすれ違うたびに「やあ、きみ!」と声をかけていたら、「よそよそしいCEO」になっていただろう。彼らが人間関係を築きたいと思えない、一緒に働きたいと思えない、そんなリーダーだ。
言うまでもなく、人望のないボスは、業績不振の最大の要因の一つだ。だからこそ私は、最も新しい仕事仲間のことをしっかり記憶して、感謝の気持ちを伝えるようにした。
新しい情報を学習する際は、繰り返し強調しているが、繰り返すことが肝心だ。反復のエクササイズは、ビジネスリーダーにとって2つの意味で重要である。地域のマネジャーの名前や、潜在的な顧客の家族構成を忘れることは、人間関係のコストを生むのだ。詳細な情報を迅速に整理することは、長期的に役に立つ。
たとえば、次のような方法がある。
・新たに会う人についてネットで調べる。複数の文脈で彼らの名前を確認すると、記憶しやすくなる。
・会話の中でいろいろな質問をする。ネットの下調べで答えがわかっている質問も、投げかけてみよう。反復した情報は、頭の中で浮かび上がりやすくなる。
・新規のクライアントや採用候補者に会った際は特に、社内のチームとともに詳細を整理する。あなたが連絡を取った人のリストと詳細な情報を、チームで復習して確認する。ほかの人の記憶は、あなたの記憶を呼び起こす手助けになる。
こうした習慣は、最初は難しく思えるかもしれないが、時間とともに価値がわかるだろう。
いざというときに、スマホは、記憶を正確に呼び起こすことの代わりにはならない。私は必要なときに、すぐに情報を思いだせることが増えた。このスキルは私の人間関係を強固なものにして、それが私の会社と仕事を支えている。
さらに、今回の危機から対人関係について何かを学んだとすれば、リーダーとしてだけでなく、人間として、人とのつながりが必要であるということだ。
少なくとも覚えておいてほしいことがある。記憶力は、相手が大切な存在であることを伝える能力であり、それだけでも貴重でかけがえのない行為なのだ。
HBR.org原文:How to Build a Stronger Memory, June 17, 2020. UPDATED July 01, 2020.
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