(1)自分のイノベーションが長期的な問題に取り組んでいるかどうかを見極める

 優れたイノベーションは、具体的で、緊急性が高く、規模の大きな問題に呼応して生み出される。新型コロナ危機は、ある意味で、私たちにとって最も緊急な問題と、その潜在的な解決策を浮き彫りにしている。

 たとえば、医療従事者はマスクを必要としていて、生産施設は遊休状態で、労働者は自宅待機中で仕事を必要としていた。社会的企業はこれら3つの喫緊の課題に、同時に取り組むことができるだろう。労働者を訓練して、有効活用されていない生産施設で、医療従事者のためにマスクをつくるのだ。

 ただし、これら一連の問題は、3年後や5年後も同じ解決策を必要としているだろうか。

 新型コロナ問題に触発された起業家の中には、パンデミックによって増幅され加速された、既存のトレンドをもとにビジネスを築いている例もある。遠隔医療、患者の遠隔モニタリング、医療における人工知能の活用が爆発的に成長していることも、その一つだ。

 マサチューセッツ工科大学などが主催するハッカソン"MIT Covid-19"で表彰されたあるチームは、病院で最も必要とされている重要な医療用品の全国的な流通を追跡するモデルを構築した。医療用品の効率的な流通は、間違いなく現在の緊急の課題だが、今回の危機が収束した後も、無駄を減らしてコストを削減する必要に迫られている医療システムにとって価値があるだろう。

 一方で、現在は緊急かつ重要だが、状況が変わればそこまで緊急ではなくなりそうな問題を解決するために、設立された組織もある。医療従事者を支援する無料の食事デリバリーのサービスは、こちらに分類されるかもしれない。

 自分の新しい製品やサービスが長期的な問題に取り組んでいるのか、それとも短期的な問題なのかを判断する際は、まず過去を参照にするとよい。2019年以前のデータを使って、市場機会分析をするのだ。現在、取り組んでいる問題は、その当時も問題だったのだろうか。もしそうなら、どのくらい大きな問題だったのか。

 さらに、あなたが取り組んでいる問題は新型コロナウイルス感染症の出現によって生まれたか増幅されたことで、あなたのイノベーションを必要としているわけだが、新型コロナの出現によって具体的に変わったことを挙げてみよう。

 たとえば、物理的に離れた場所から患者をケアする必要性は、遠隔医療や遠隔モニタリングによって解決できる問題だが、2020年以前にも間違いなく存在していた。新型コロナウイルス感染症の出現によって変化した要素は、広範囲に外出禁止令が出されたこと、テレビ電話など在宅ベースの技術がさらに普及したこと、遠隔医療に関する規制や補助金制度が変わったことなどだ。

 こうした変化が相まって、これらのサービスの需要が急増している。

(2)長期的な市場を特定する

 次に、自分の製品やサービスについて、「コロナ後」も大規模で熱狂的な市場が存在するかどうかを予測する。今回のパンデミックの前にCBインサイツが実施した調査によると、スタートアップの破綻の理由として最も多いのは市場の需要が足りないことで、42%の企業が考えられる要因として挙げている。

 私も20年前、「失敗したスタートアップ創業者クラブ」に危うく入会するところだった。私は一流大学の終身在職権を手放して、業界でもいち早くデジタルヘルス企業を共同設立した。

 私たちが掲げたミッションは、ラテンアメリカ向けにオンラインで健康リソースを構築することだ。しかし、法人化して間もなく、当時のオンライン市場には、スペイン語を話す消費者が数百万人しかいないことに気がついた。持続可能なビジネスを構築するには、あまりに小さな市場だった。

 そのうえ、私たちは新米起業家にありがちなミスを犯した。テクノロジーに集中しすぎて、顧客に十分に目を向けなかったのだ。

 その後はユーザー重視の思考を通じて、持続的なビジネスを構築するカギとなるのは、自分の顧客がどのような人々で、自分の製品やサービスが彼らの世界にどのようにフィットするかを、深く理解することなのだと学んだ。

 新型コロナウイルス感染症にインスパイアされた起業家として、次の2点をあらためて考えよう。まず、あなたは自分の顧客が熱狂するようなイノベーションを提供しているか。そして、今回の危機が収束した後も、ビジネスを成長させるために十分な数の情熱的な顧客がいるだろうか。