新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、社会全体そしてビジネスの在り方に大きな変化をもたらした。企業には、感染症への対応を含めた社会課題の解決に貢献しながら、経済活動と利益を追求することが期待されている。それは、これまでのコンシューマー・従業員との関係性が大きく変わることを意味している。この論考では、COVID-19がもたらしパンデミックにおけるコンシューマー・従業員、セールス、マーケティングなどの企業運営、それぞれの変化を読み解きながら、ポストコロナ時代におけるビジネスの在り方や、企業が目指すべき姿について考える。
パンデミックがもたらしたコンシューマーの変化

カスタマー&セールス プラクティス 日本統括
マネジング・ディレクター
木原 久明(きはら ひさあき)
東京大学大学院博士前期課程修了後、2002年にアクセンチュア戦略グループ入社。15年以上にわたり、金融機関のクライアントを中心にして、事業戦略、M&A、営業・マーケティング、デジタルイノベーションなどのプロジェクトに従事。現在は、全ての産業を対象として、クライアントの成長を顧客・企業の双方の視点から実現する専門部署の日本統括。
最初に、COVID-19がコンシューマーにもたらした変化について見ていくことにします。アクセンチュアが独自に実施した調査では、コンシューマーの67%は、この先6カ月間において自らの社会的活動の多くを自宅で行う予定であると回答しています。そこには、すでに定着しつつある以下の3つの変化が背景としてあります。
- 消費行動:コンシューマーの購買活動の多くはオンラインを介して行われる
- ソーシャルネットワーク:人と人との付き合いも、多くが自宅で行われる
- エンターテインメント:映画や演劇といった娯楽も自宅で楽しむ時代になる
ここから分かるのは、日用品購入や食事のデリバリーなどの日常的な消費の在り方が変わるだけでなく、嗜好品、高級ブランドや自動車などの高額商品、さらには専門家のコンサルティングが必要な金融商品や不動産取引まで、あらゆる規模の取引が自宅、リモートで行われるようになっていくことです。
このことを裏付けるように、米国ではeコマースの売り上げが爆発的に拡大しました。COVID-19によるパンデミックの発生以降、わずか数週間で過去10年分にも相当する成長を記録したという報告もあり、あらゆる商品やサービスの購買チャネルがオンラインに大きくシフトしたことがうかがえます。
また、オンラインでの購買体験が日常化した結果、映画館や劇場などが営業を再開した後でも、これらのコンテンツをオンラインで楽しみたいと考える人が急増しました。調査対象となった人の32%は、COVID-19を契機にサブスクリプション型での映画などのオンライン視聴サービスを利用し始めており、さらにその80%は今後も利用を継続すると答えています。このようにサブスクリプション型エンターテインメントの需要が高まったのも、COVID-19がもたらした消費行動の特徴的な変化です。
パンデミックの拡大防止を前提とした社会システムに変化したことによって、コンシューマーの行動にはさらなる変化が生じています。例えば、あらゆることを在宅で行うようになった結果、働き方についても、いわゆる「9~5時」といった区切りがなくなり、業種や職種によっては自分が働きたい時間に働くことも可能になりました。そうなれば、企業の物理的なオフィスの存在意義も薄れ、働き手にとっては「リモートワークができるかどうか?」が仕事選びの重要なポイントになります。
このようにコンシューマーは、“ニューノーマル”へ移行し、再び元の世界に完全に戻ることは考えにくい状況です。相対的には感染爆発を抑止できている日本においては、「いずれコロナ以前の生活に戻るときが来るはず」と考えている人の割合が、世界全体と比べて倍近くであることがアクセンチュアの調査では分かっていますが、すでに新しい世界へのシフトが始まっているのが事実です。それだけに、企業には加速する変化に迅速かつ柔軟に対応しながら、ビジネスのかじ取りを行っていく姿勢が不可欠だといえます。