●具体化する
人は、時間、空間または社会的に離れている物事ほど抽象的に考える傾向がある。このことは、多数の調査結果によって示され、「解釈レベル理論」と呼ばれている。リモートワークに当てはめると、解決しようとしている問題の現場から物理的に離れているため、抽象的な思考になりやすいことを意味する。
最初は、その抽象性がよいほうに働くことがある。当初は問題を一般化して考えるため、自分の別の知識領域から何かを思い出す可能性が高くなるからだ。抽象性は言い換えると、発想につながるよいアナロジー(類推)を見つける助けになる。
しかしこの場合、漠然とした考えにとどまり、具体的な解決案までは思い至らないおそれがある。具体性を欠いたアイデアは、反応することも、膨らませることも難しい。
筆者らはいままさに、新型コロナウイルス感染症が流行する中、テキサス大学で秋学期の計画を建てるためにこのプロセスをたどっている。筆者は授業のあり方を検討する作業部会のリーダーを務めている。この数週間、どの授業を対面またはオンラインで行うかだけでなく、教室の最大密度や学生と教職員による布マスクの着用などについて、具体的なシナリオを作成してきた。
毎週250人以上がこのシナリオにコメントを寄せ、考えうる問題点を指摘している。当然、シナリオは大きく改訂される。シナリオが具体的だからこそ、メンバーは抽象的な議論では浮かび上がりにくい問題点に気づくことができる。
たとえば、対面講義とオンライン講義に続けて出席する学生の居場所をキャンパス内に用意する必要が生じた。つまり、この学生たちはどこでオンライン講義を受ければよいのか、という問題に突き当たったのだ。細部に及ぶ検討をしていなかったら、この問題に気づいたかどうかわからない。
こうした反復設計を実行するには、そもそも全員が一致して、その設計の各要素を暫定案と見なしていることが必要となる。キーパーソンが最初の決定を擁護し始めたら、メンバーの気持ちは離れていく。だが、シナリオが次々と改訂されていく様子を見れば、メンバーはどんどんよくしていこうという気持ちを持ち続ける。
あらゆる組織が不確実性に直面する中、今後数ヵ月、あるいは数年間は、解決すべき難しい問題に事欠かないだろう。そのためオンラインであれ、対面であれ、ブレインストーミングを正しく行うことが重要だ。バーチャル環境のブレインストーミングで得た教訓は、対面に戻ったときにも大いに役立つに違いない。
HBR.org原文:How to Brainstorm - Remotely, July 20, 2020.
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