集中力をモニタリング(および潜在的にはコントロールも)する能力は、マネジャーにも新たな可能性をもたらす。たとえば企業は、全従業員の脳データがリアルタイムで表示される独自の「BCI人事ダッシュボード」にアクセスできるようになるかもしれない。
上司はやがて、従業員の集中力をモニタリングするようになるのだろうか。年次の業績評価の締めくくりに、BCIで検出された集中度の分析と比較が行われるのだろうか。
会社が従業員の脳情報に関心を持てば、各人の集中力を監視し、集中度に合わせて仕事量の調整もできるようになる。繰り返しになるが、ここには悪用の危険性も大いにある。
近い将来、業界イベントでもBCIの活用が増えていくと思われる。実際に脳データは、参加者がどのブースや企画を訪れるのかを予測する役に立つことが研究で示されている。そう遠くない将来、ビジネスイベントへの参加にはBCIの装着が義務づけられるのだろうか。
脳信号の分析にとどまらず、一部の企業はすでに、脳活動を実質的に調整できるソリューションに取り組んでいる。コロンビア大学の研究者らによると、脳波BCIを使ったニューロフィードバックは被験者の集中力に作用し、高度の認知力を要するタスクの成果を向上させたという。
数々の有望な研究結果は出ているものの、一部の専門家はこう指摘する。脳波スキャン型BCIは使用者の集中度を判定できるとはいえ、集中の対象が実際に何なのかについては、現時点ではまだ識別できない。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の脳神経科学プログラムでディレクターを務める、セオドア・ザントもその一人だ。
2019年1月の「ミディアム」の記事で、彼はこう述べている。「ある人が注意を向けている対象は、教師なのか、携帯電話なのか、あるいは心の中の考え事で、白昼夢を見ているだけなのか。この区別ができることを示すデータを、私は一つも見たことがない」
加えて、筆者も自身の研究を通じて気づいたのだが、BCIは使用者の固有の特性、たとえば性別、年齢、生活習慣などにも影響を受ける。実際に筆者のチームは、アスリートの脳活動がパフォーマンスにどう影響を及ぼしうるかを探っている。
複数の研究によると、「集中力、記憶負荷、精神疲労、相反する認知プロセスといった心理的要因、および使用者の生活習慣や性別、年齢を含む基本的特性は、瞬間的な脳ダイナミクスに影響を及ぼす」という。専門家らの見解では、「人の約15~30%は生来的に、BCIを操作するための十分に安定した脳信号を出すことができない」とされる。
こうした状況では、不正確な測定結果、ひいては企業の誤った判断を招きうるのは明白だ。BCIには克服すべき課題がまだ多くあり、大幅な改善が求められる。