職場におけるBCIのもう一つの利用シーンは、人々と機械・機器とのやり取りに関わるものだ。未来では、危険を伴う仕事のほとんどでBCIの使用が義務化されるだろう。例として、一部のBCI企業はすでに、居眠り運転の脳信号を分析するために脳波計を活用している。
危険な機械類を操作する従業員に対しても、企業は同様の形でモニタリングするようになるかもしれない。パイロットと外科医もいつの日か、仕事中にBCIの装着を義務づけられるだろう。
BCI技術は脳と外部機器との直接的な相互作用を可能にするため、人間と機器とのやり取りに関するアイデアはBCIの核となる。
今後数年のうちに、パワーポイントのプレゼン資料やエクセルのファイルは、脳のみによって操作できるようになるかもしれない。脳活動を文字やコンピュータへの指示に変換できるプロトタイプもある。理論上、この技術が発展していけば、人々が職場でBCIを使ってメモや報告書を書く光景が見られるだろう。
また、人のストレス度や思考に応じて、職務環境が自動的に調整されることも想定できる。BCIは個々の従業員の精神状態を検知し、それに合わせて付近の機器を調整する(スマートホーム技術を活用)。
具体例として、ストレスが高まると、装着中のヘッドバンドが使用者のコンピュータに(ブルートゥースで)情報を送り、プレイリストの中から「落ち着く曲」を流してくれる。あるいはスラックが「おやすみモード」になり、次のアポイントメントが自動的にキャンセルされるかもしれない。
こうした場面では、当然ながらプライバシーの問題が持ち上がる。あなたは自身の精神状態を他者が正確に把握できるとしても、まったく気にしないだろうか。その情報があなたに不利な形で使われる可能性があれば、どうだろうか。あなたの承認なしに、他者にそのデータを改変されかねないとしたらどうだろうか。
研究者らはまた、パスワードの代替として「パス思考(passthoughts)」の実験も進めている。近いうちに、さまざまな機器やプラットフォームに思考でログインできるようになるかもしれない。
『IEEEスペクトラム』誌の記事では、次のように説明されている。「人が頭の中で形を描いたり歌を歌ったりする脳内作業を行う時、脳は各人独自の神経電気信号を生成する。10億人が頭の中で同じ歌を歌うことができても、その作業で生成される脳波パターンには2つとして同じものはない。脳波計が、信号を記録する非侵襲性の電極を通して、それらの脳波を読み取る。唯一無二の脳波パターンは、パスワードや生体認証のように使うことができる」