ご想像の通り、職場でのBCI技術の使用には、さまざまな倫理上の問題と懸念がつきまとう。導入を選んだ企業は、一般の人々はもちろん、従業員からも強い反発を買うかもしれない。

 脳データの収集に関しては、悪用の可能性を考えるときわめて恐ろしい。どれほど細心の注意を払っても、企業は従業員の評価、モニタリング、訓練において脳データに過度に依存してしまう可能性があり、そこにはリスクが伴う。

 BCIは完璧な技術ではない。企業や個人が実際にこうした機器を使い始めれば、どんな間違いや事故が起きるかわからない。加えて、ほかのあらゆる技術と同様に、BCIはハッキングの標的となりうる。ハッカーはBCIのヘッドバンドにアクセスし、操作を加えた脳波データを生成・送信するかもしれない。

 BCIによって送信されるあらゆるデータを妨害や改ざんするおそれもある。ユーザー認証情報となるパス思考を盗み、持ち主の機器(ノートPCや車など)と通信することもできる。

 こうしたリスクは、人々の身体の安全に直接影響を及ぼす。また、脳データは脅迫目的で盗まれることも考えられる。深刻な悪用が行われる可能性は、非常に大きいのだ。

 企業界が脳データの利用と分析を始めたら、プライバシーとデータ保護にどう優先順位を付け、従業員のデータを守るために業界の最高水準をどう満たすのだろうか。

 収集されたデータの最終的な所有者は誰なのか。そしてBCI技術を企業が実装し始めたら、従業員はどんな権利を持つべきなのか。技術がはるかに先行し、必要な方針と規制の整備が遅れているのは言うまでもない。

 それでもこの技術は、一般市場にゆっくりと進出している。より安全で正確、かつ安価なBCIの開発に臨むスタートアップと大手ハイテク企業が増えている。

 ビジネスリーダーが業務効率化と安全向上のために、この技術を受け入れ、脳データの活用に努めることを筆者は期待している。潜在的なリスクとメリットを検討するために、なるべく早くBCI戦略の策定に着手することをお勧めしたい。


HBR.org原文:What Brain-Computer Interfaces Could Mean for the Future of Work, October 06, 2020.


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