バーチャルオフィス
コロナ禍が到来する約10年前、テクノロジーのパイオニアたちは大型スクリーンの動画ポータルサイトを使い、常時接続された動画フィードを通じて、各地のサテライトオフィスをお互いの世界につなぎ始めた。
この技術が進化するに従い、大手企業は自社のチームをグローバルにつなぐ「バーチャルネイバーフッド」の実験を始めた。
その理由は、地理的に分散したチームのメンバーがお互いの姿を見られないと、自分はチームから切り離され、孤立しているように感じるためだ。オフィスで存在していたセレンディピティ、つまり偶然の出会いがないことは、彼らの士気を低下させただけでなく、コラボレーションやイノベーションの能力も低下させた。
現在、金融サービス業界や小売業界では世界的大企業の一部で、スニーク(Sneek)やプッカチーム(Pukkateam)といったMRツールを使って、従業員がバーチャルオフィスに集まっている。
これらのツールでは、メンバーのスナップショットが定期的に更新され、画面のタイルに表示される。同僚の姿を見せることによって、誰がデスクにいるか、誰が電話に出ているか、誰がコーヒーを飲んでおしゃべりしているかを知ることができ、チームに一体感が生まれる。
また、タイルをクリックすれば、表示されている同僚とすぐにビデオ通話ができる。ビデオ会議を設定する面倒な作業はしなくて済む。
一方、チームのグループチャットには、絵文字を入れたり、ステータス情報(「子どもが学校の授業に接続するのを手伝わなくちゃ!」)を書き込んだり、GIFを使って冗談を交えたりすれば、楽しくフレンドリーでオープンな「職場」を演出できる。
自分の姿を同僚に1日中さらされるのは嫌だというチームは、ソココ(Sococo)のようなツールを活用するのもよいだろう。そうすれば、自分の画像ではなくアバターを使って、イラストで描かれたバーチャルオフィスで一緒に仕事をすることができる。そこには会議室やゲストの待機エリア、パントリーまである。
バーチャルフォーカスグループ
人工知能(AI)を使ったバーチャルフォーカスグループの需要も拡大している。これにより、物理的な会議室に限定されていた範囲を大きく上回る、フォーカスグループ調査ができる。
ラメシュ(Remesh)のようなプラットフォームでは、小規模のフォーカスグループ、しかしデジタル調査ならではの大規模な調査から得たインサイトを活用できる。一方的なフィードバックしか獲得できないという欠点もない。
こうしたプラットフォームを利用して市場調査をすることも可能だ。特定のトピックや新製品のコンセプトについて、匿名化された最大1000人の意見を集めることができる。AIと投票エンジンを使って回答をまとめることができるため、ファシリテーターはリアルタイムに反応して、議論の軌道修正を図り、アイデアを探ることができる仕組みだ。
バーチャルフォーカスグループを使って、従業員のエンゲージメントを高め、組織文化の改善を図る企業もある。
たとえば、ある銀行はバーチャルフォーカスグループを使って、組織全体のダイバーシティとインクルージョンの現状を理解し、そして改善を行った。MRを利用したフォーマットによって、同行では計1200人の従業員を60人ずつのグループに分けて話を聞くことができた。
匿名かつオンラインで大規模な調査ができたことにより、マネジャーはより多くの声を聞くことができた。そこには、これまで直接話をしたがらない人の意見も含まれていた。
より多くの従業員が参加するようになると、同僚同士がお互いの見解を自由に評価した。「これほど自分の意見を聞いてもらえていると感じたことはなかった」と語った従業員もいた。
プラットフォームのAIエンジンがもたらしてくれる定量化可能なデータと個々の発言、そして課題が明らかになると、不適切な行動は会社の一部に限られないことが判明した。その結果を見た同行のリーダーシップチームは、ダイバーシティとインクルージョンの改善に注力することを決意した。