バーチャルコラボレーション

 企業は、プロジェクトの運営やイノベーションに関するブレインストーミングの方法としても、MR環境を活用している。コロナ禍が到来した時、多くの企業は関係者が対面で集まることができなくなり、いくつものプロジェクトやR&D活動が凍結された。

 だが、動揺しなかった企業もある。こうした企業では、オンラインメモパッドやデジタルホワイトボード、そして共同編集ができるウィキペディア、スライド、ドキュメントといったコラボレーションツールを使って、従業員をまとめた。

 たとえば、筆者が2020年夏にコンサルティングを行ったある銀行では、バーチャルワークプレースでも新しいデジタル金融商品を設計してローンチさせられることを見出した。しかも、前年に別の金融商品をつくるため、関係者が飛行機で集まってブレインストーミングした時と比べて、数分の1の時間で済んだ。

 これは動画や音声、チャット、そしてコラボレーションツールを組み合わせると、声の大きい人や威圧的な人に気圧されることなく意見を伝えることができ、メンバー全員が貢献する機会を生み出せるためだ。

 もちろん飛行機で移動する時間がないため、ミーティングを逃すこともがない。バーチャルルームのプレゼンスが拡大したことで、従来にはない方法で、より良質でより包括的なソリューションが生み出せるようになった。

 マルチエディタのコラボレーションツールを使うと、ホワイトボードを使ってファシリテーターの指示に従う方法に比べて、多くのアイデアを同時に共有し、検討することができる。しかも、まとめた結果はその場で美しくフォーマット化され、報告書やドキュメンテーションにすぐ使うことができる。ホワイトボードの殴り書きをスクリーンショットして解読するのとは、大違いだ。

MR技術の領域

 MR技術を利用した仕事の未来が実際どのようなものになるか、私たちはまだ理解を始めたばかりだ。現在のような規模で在宅勤務をすることになるとは、1年前は誰も信じなかっただろう。

 だがいま、筆者が話を聞く事実上すべての大手企業が、バーチャルな働き方を持続可能かつ生産的にするイノベーションを手に入れたがっている。

 この需要が、MRの次なる波を牽引するだろう。たとえば、チームや部署全体で最適な数のセレンディピティを生み出すAIツール。バーチャルコラボレーションを、PCの画面から、もっとイマーシブ(没入型)で実物大のフォーマットに変える手頃な価格のホームスマートボードや大型マルチモニターディスプレーシステムもあるだろう。

 そして、デザインチームがそれぞれの自宅で、物理的なプロトタイプを試作できる3Dプリンター。自宅でつくれないようなものについては、ドローンを使って、たとえばバーチャルハッピーアワーに必要なアイテム(ワインや絵具セットなど)を届ける、ホームデリバリーなどが考えられる。

 ズームが大流行する前、たとえば2010年時点のスカイプ電話は画質も音質もひどく粗かった。現在、人気を集めているMR技術は近い将来、はるかに優れたものになる可能性が高い。

 10年後、現在のバーチャルオフィスやフォーカスグループやコラボレーションツールを振り返る時には、いまの私たちが10年前の音が途切れがちだったスカイプ電話に対して抱くのと同じような古さを感じるのだろう。


HBR.org原文:The Next Generation of Office Communication Tech, October 09, 2020.


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