●クリティカル・シンキングの欠如

 アリは、私がコーチングを行っているエグゼクティブによくあるフィードバックを頻繁に受け取っていた。「彼は優秀だ。物事を掘り下げ、1カ月かけても誰も考えつかなかった方法で物を見ることが、15分でできる」というものだ。賢いと思われたいと多くの人が望むが、他人が自分をどう見ているかを重視しすぎると問題になる。

 あなたがあまりにも早く、頻繁に見識を与えると、同僚や部下は自分の専門性を伸ばす機会が得られない。また、部下がマネジャーに対して劣等感を抱くとわかっていて会議に参加すると、自信も打ちのめされる。

 あなたの見識は役に立つかもしれないが、チームが何週間もかけてプレゼンテーションの準備をした後で、それが与えられることが少なくない。さらに、組織内でクリティカル・シンキング(批判的思考)の大部分を一人の人間が負うことはリスクを伴い、会社が盲点を突かれることになりかねない

 チームが自分で考える能力を高めるためには、プロセスの早い段階でコーチングを実践することだ。答えを提供するのではなく、質問をする。チームメンバーの洞察力のクオリティはあなたの質問のクオリティに正比例する。たとえば、「主要な競合他社はこの戦略にどう対応するだろう」とアリが尋ねると、部下の一人はすぐにみずからのアプローチの欠陥を見極め、アリの力を必要としなかった。

 自由に答えることができる質問は、単なる情報収集ではなく、相手の視野を広げ、新しい視点で考えさせる。解決策を与えるのではなく、他者のクリティカルシンキングのスキルを活性化するのだ。

 ●自発性の欠如

 従業員が大胆な行動や小さな行動さえも実行する自発性に欠けることにアリは驚き、口うるさくなって、目を光らせるようになった。彼らは不完全なままのアクションアイテムに同意したり、期限に間に合わない理由を伝え合わなかったりした。

 アリはまた、フォローアップの議論を多く行い、従業員がもっと下調べできる領域を提示していたようだ。それによって彼は、「任せた」仕事も彼の貴重な時間を奪うと腹を立て、従業員らはマイクロマネジメントをされているように感じた。

 権限委譲に失敗するのは従業員の自発性や実行力が不足しているからだと思うなら、戦術的かつ戦略的に対処すべきだ。会議では毎回、メモやアクションアイテム、日付、責任者を書き留める人を任命し、次の会議では約束したことのフォローアップから始める。基本的なことのようだが、筆者が携わっているエグゼクティブチームの半数近くは、適切な手段で実行することができていない。

 より戦略的に、最優先事項をリスト化した1ページの「プレースマット」(プレースマットと同じくらいの大きさのためこう呼ぶ)を作成するのもよい。あなたが何に対して報奨を与えるかを示し、従業員のモチベーションを高める別の方法を提示するものだ。ずさんな行動を排除し、本当に重要なことを示すことで、責任感とモチベーションを高めることができる。