●クオリティの欠如

 アリは、取締役会でのプレゼンテーションのためのスライドを準備するようチームに依頼することを諦めていた。

 チームが最終版を提出する頃には時間が足りず、問題点が山ほどあった。アリは失望し、たびたび資料をつくり直し、足りない時間を補うために睡眠を犠牲にした。彼のチームは、またしても失敗でやる気が押し潰された。

 こうしたやり方よりも、クオリティを高めるチームの能力を解放しよう。初めに、よくあるミスのリストと、代わりにあなたが何を求めているのかをチームに提示する。たとえば、スライドのタイトルが短くなるよう推敲する代わりに、タイトルが2行にならないように指示する。部下が知っているあなたの好みに基づいて、このリストの起草を任せることもできる。

 次に、間違いを修正するのではなく、それを指摘し、修正するよう求める。直接編集した箇所に印をつけるのではなく、コメントで注釈を付ける。この方法は、最初は時間がかかるが、長期的にはあなたが何を求めているのかをチームが理解してくれ、時間の節約になる。

 締め切りを早めなければならないこともあり、部下が最終版を提出できないかもしれないが、それでも構わない。部下に改善点を示すことで、よりクオリティの高いプレゼンテーションが可能になり、将来的により多くの時間ができる。

 ●スピードの欠如

 アリは、なぜ従業員が仕事をこなすのに自分よりもはるかに時間がかかるのかを理解できなかった。私が関わってきたCEOのほぼ全員が「CEO時間」のリズムに合わせて進んでいる。人より速く仕事を完了できる(あるいはする)と考える歪んだ時間軸だ。

 これは、CEOのほうが経験豊富で、自分の望むものが最初から明確であり、タスクを調整するために考えたりやり直したりする必要がなく、従業員が上司の前ではプロフェッショナルに見せたいと考えて費やす余分な時間を考慮に入れないからかもしれない。

 次に「急ぎ」の仕事が発生したら、チームメンバーにそれにどれくらい時間がかかると思うかを聞いてみてほしい。あなたが考える時間と差があったら、彼らのやり方と、なぜそう見積もったのかを尋ねる。必要に応じて、不要な事項や細部を削って時間を短縮する手助けをすることができる。

 たとえば、見事なスライドは必要なく、段落2つ分の記述だけで足りるかもしれない。一方で、あなたは任せた仕事の何に、どのくらい時間がかかるのかをより理解できるようになり、それに応じて予測を立てることができる。

 マネジャーは権限委譲をするうえで、しばしば押したり引いたりをする。仕事を押し付け、期待に達しないと引き戻す。失敗点を深く掘り下げることで、権限委譲がうまくいかなかった根本的な原因に対処し、チームのモチベーションと生産性を高めることができるのだ。


HBR.org原文:You're Delegating. It's Not Working. Here's Why., November 12, 2020.