「成果に語らせよ」
自信のある人ではなく、真に能力のある人が成功できていれば、世界はいまよりずっとよい場所になっていただろう。完璧な世界であれば、自己宣伝や自己ブランディング、政治的工作、上司への売り込みなど必要ない。
しかし、残念なことに、現実の世界はそうなっていない。「上辺だけで中身がない」人は、「中身はあるけれど上辺がない」人よりもはるかに出世しやすいのが現実だ。さまざまな研究が繰り返し実証しているように、仕事の世界では、コネ、印象、パフォーマンスが、才能や潜在能力より物を言う場合が多い。
●代わりにどうすべきか
あなたという人間のブランドは、実際の仕事の成果以上に、キャリアの成功を後押しする力が強い。つまり、非常に豊かな才能の持ち主でも、上司への売り込みに力を割くことの利点は大きい。上司との関係を強化したり、有力者に評価されるようにしたりすべきなのだ。
自分自身の最も盛大な応援団に(ただし、謙虚さを忘れずに)なろう。理想は、上司があなたのことを謙虚だけれども有能だと思うこと。あまりに露骨だったり、押し出しが強すぎたりするのは、逆効果になりかねない。
実権を持っている人たちをよく観察して、その人たちがどのような課題を解決したいと思っているかを知ろう。そして、その問題解決に自分が貢献できることを実証するのだ。
周囲のことを考えずに、ひたすら自分の仕事に徹するよりも、このほうがはるかに成功しやすい。ゴッホやモーツァルトといった偉大な芸術家たちが貧しいまま世を去ったのは、「ビジネスの政治的工作」に十分な関心を払っていなかったからなのだ。
「自分の強みを活かすことを考えよ」
このキャリア・アドバイスを好む人は多い。「自分の弱点を洗い出して、それを改善せよ」というアドバイスとは比べものにならないくらい、実践するのが簡単だからだ。
長所は、たいてい自然に発揮できる。その人が自然に持っている要素が地位と名声につながるのだ。誰もがそうした長所を持っている。問題は、どのような分野で活動するとしても、弱点を抑制しない限り、成功することはほぼ不可能だということだ。
たとえば、あなたが世界で一番賢い人物だとしても、共感の精神と謙虚さを持っていなければ、高度な知性があだとなり、傲慢で冷血な人物だと思われてしまう。また、作家としての才能が傑出していたとしても、自己コントロールができなければ、多くの作品を完成させられず、締め切りを守ることもできないだろう。
それに、せっかくの強みも、過剰になると弱みに変わる。自信が過剰になれば幻想になるし、あまりに親切すぎる人は、波風を立てないことを最優先に行動するようになる。そして、野心が強すぎると、強欲な行動を取るようになる。
●代わりにどうすべきか
古代ギリシャの哲学者アリストテレスいわく、美徳は常に中庸にある。
冷淡だったり、激情的だったりするより、ほどよく感情豊かなほうがよい。視野が狭すぎたり、無鉄砲だったりするより、ほどよく好奇心を持っていたほうがよい。想像力を欠いていたり、突飛な考え方をしたりするより、ほどよく創造性を持っているくらいがよい。
現実の世界に適応し、ほかの人たちに強い印象を与えたいのなら――キャリアの初期には、それが非常に有益だ――「自分の強みを活かすことを考えよ」とは別のアドバイスを実践したほうがよい。そのアドバイスとは、「自分の強みを大切にするのはよいが、弱みを認識することにも努めよ」というものである。
目覚ましい成果を挙げる人たちは皆、自分を批判的に見る傾向がある。概して、大きな野心を持つのは、弱点を克服しようと試み続け、すでに成し遂げた成果に満足できないからだ。
あなたも自分の弱点を知れば、健全な不満を抱くことになる。そのような不満に駆り立てられて、自分をいっそう成長させようとするかもしれない。現状の自分と理想の自分のギャップを埋めたいと思うようになるのだ。その結果、あなたはより速く、より遠くまで進めるようになる。