
新型コロナウイルス感染症は、B2Cビジネスの前提を根底から覆した。いつロックダウンが実施されるのか、感染拡大を抑制できるかは誰にもわからず、従来のモデルによる需要予測はもはや困難である。この問題を直感で乗り越えようとするマネジャーもいるが、その行為がデータのノイズを増やし、予測の正確性をより低下させている。筆者らは、予測が難しいからとモデルづくりを諦めるのではなく、モデル構築の方法を見直すべきだと主張する。本稿では、そのための4つのポイントを提示する。
新型コロナウイルス感染症の流行により、消費者向け製品・サービスを扱う小売業者や納入業者の需要予測が崩れ去った。
どれくらいの量の製品を製造・発注すべきか、製品の在庫をどこに保管すべきか、どのくらい広告を行い、どれくらい割引をすべきかといった判断が難しくなっている。感染拡大が始まった初期には、突然のロックダウン(都市封鎖)と在宅勤務への移行により、消費者がパニック状態に陥り、さまざまな食料品や生活用品の買いだめが起きたが、その一方で小売店の棚でずっと売れ残たままの商品もあった。
不確実性は、現在もさまざまな面で解消されていない。ペーパータオルや野菜の缶詰など、ある種の商品は、いまも品薄状態が続いている。
冬に感染者数が再び増加し、人々が家にこもるようになることを見越して、食料品を扱う小売業者は、主要な食料品を数週間分どころか、数カ月分も蓄えようとしてきた。その結果、クリスマス向け商品や季節商品の需要がまったく予測できなくなっている。
加えて、失業給付の制度変更、投資市場の不安定化、米大統領選や人種問題をめぐる社会の不安定化などの要因も、さらに需要を混乱させる可能性がある。
もっと根本的なレベルでも、消費者の姿勢や行動に変化が起きている。コロナ禍の中で、消費者は消費行動を通じて、概してリスクと不安を小さくし、集団への帰属意識を得ようとしてきた。しかし、新型コロナウイルス感染症および物理的行動に対する人々の姿勢と行動は、以前よりも多様化している。年齢、所得、政治的志向による違いが拡大しているのだ。
こうした新しいパターンを理解し、コロナ禍の日々に合わせて消費者のカテゴリーわけをやり直すことにより、需要予測の質を高められる可能性がある。それは多くの企業にとって、いま優先的に取り組むべき課題だ。
その取り組みをいっそう難しくしているのは、(コロナ禍の中でしばしば起きるように)予測が外れると、マネジャーたちが往々にして、直感で行動しようとすることだ。その結果、ただでさえデータのノイズが多いうえに、バイアスにより混乱にいっそう拍車が掛かり、予測の正確性がさらに低下してしまう。
ここで生じるバイアスには、さまざまなタイプのものがある。たとえば、家庭用品メーカーの需要予測では、実際にどれくらいの売上げが期待できるかに関係なく、潤沢な商品供給を約束して小売業者を満足させたいという意識が働きがちだ。
メーカーの営業担当者としては、担当する小売店を訪ねた際に、在庫切れについての不満を聞きたくはない。在庫切れを起こせば、売上げが減り、小売業者との関係が損なわれるし、その結果として、将来的には市場シェアにも悪影響が及ぶ。
しかし、これとは逆の方向で極端な選択をすることにも問題がある。在庫を過度に減らすことでリスクを限定しようとすれば、大きな代償を払わされる。直近には売り逃しが生じるし、先々には、小売業者との関係が傷ついたり、市場シェアが落ち込んだりするからだ。
また、マネジャーは、自分の目に入る情報だけで物事を判断する落とし穴にもはまりやすい。コロナ禍に関して自分の暮らす地域の情報しか見ないケースがあるのだ。たとえば、米国南部を中心にビジネスを行っている企業のマネジャーの中には、最初にニューヨークで感染が拡大し始めた時、自分たちとは関係のない話だと考えた人たちもいた。
では、マネジャーはどのように行動すればよいのか。必要なのは、予測の難しい状況でモデルづくりをやめてしまうのではなく、モデルづくりの方法を見直すことだ。