(7)メンタルヘルス関連の支援を行うことが当たり前になる

 ここ数年、育児休業制度の期間延長など、企業が従業員に提供する福利厚生制度が拡大してきた。ガートナーの調査によれば、コロナ禍以前の時点で、福利厚生予算の増加分の45%は、従業員の精神面・情緒面の幸福度を高めるための取り組みに費やされていた。

 そこへもってきて、コロナ禍により、従業員の幸福度がいっそう重視されるようになった。メンタルヘルスが従業員と職場に及ぼす影響の大きさに、企業が気づき始めたのだ。

 2020年3月末の時点で、68%の企業は、コロナ禍で従業員を支援するために少なくとも1つのウェルネス関連の福利厚生制度を新設していた。2021年には、この傾向にいっそう拍車がかかりそうだ。

 企業は、メンタルヘルス関連のプログラムを拡充し、メンタルヘルスの問題を抱える従業員への偏見を取り除こうとするかもしれない。たとえば、事業活動を1日停止して「全社メンタルヘルス・デー」とし、精神の健康というきわめて重要な問題について、全従業員の理解を深めようとする企業も出てくるだろう。

(8)企業は、自社に欠けているスキルを補うために人材を「レンタル」し、確保し始める

 企業が事業活動で必要とするスキルの種類は、目を見張るほど増加している。筆者らの分析によれば、2020年に企業が求人広告で志望者に求めていたスキルの種類は、2017年より約33%も多い。企業は、既存の従業員に素早く新しいスキルを学ばせることができておらず、ニーズの変化に追いつけていないのだ。

 そこで、一部の企業は、予測のつかない未来に向けて従業員のスキルを育もうとするのではなく、実際にニーズが生じた時に、そのスキルの持ち主を高給で雇えばよいと考え始めるだろう。一方、臨時社員や契約社員の活用を増やしたり、ほかの企業とパートナーシップを結んで人材を短期間「レンタル」したりすることを選ぶ企業も増えるだろう。

(9)米国の各州政府は、企業を誘致することよりも、優秀な人材を引き寄せることを目指して競争し始める

 州政府や自治体政府はこれまで、さまざまなインセンティブ制度を設けて企業を誘致しようとしてきた。企業を誘致できれば、雇用が生まれると期待できたからだ。

 しかし、リモートワークとハイブリッド型勤務体系が一般的になる時代には、この戦略は変化することになる。従業員の居住地と勤務先企業の所在地の結びつきが、これまでになく弱まるからだ。

 そのような変化の結果、州政府と自治体政府は、大企業を地元に誘致するために税制優遇措置を設けるだけでなく、個人を呼び込むための税制を設けるようになるだろう。

 カンザス州トピカやオクラホマ州タルサなどは、すでにそうした趣旨の制度を設けている。これらの都市は、移住してくるリモートワーカーに最大1万5000ドルを支給している。州政府や自治体政府は、雇用主である企業だけでなく、個々の働き手とその職を呼び込むために競争し続けるだろう。

 2020年は近年の歴史で最も激動の1年だったが、この1年で激動が終わったと考えるのは間違いだ。2020年に起きたことの影響は、今後数年かけてはっきりと見えてくる。それに伴い、2021年以降、変化のペースはいっそう加速する可能性がある。


HBR.org原文:9 Trends That Will Shape Work in 2021 and Beyond, January 14, 2021.