
ジェンダーや人種、年齢などを理由に不公正な扱いを受けている現実を目の当たりにすると、自分も社会正義のために闘いたいという気持ちに駆られる。だが、日常生活の多くの時間を仕事が占めている状況では、そうした活動に時間を割く余裕がないのも現実だ。そこで筆者が提唱するのが、「仕事を通じたパーパスの追求」である。日々の業務にソーシャルパーパスの実現に向けた行動を組み込むことで、社会的大義に貢献できるだけでなく、キャリアの成功にもつながるという。本稿では、どのような恩恵がもたらされるかを概説し、職場での具体的な行動例を紹介する。
20年ほど前、筆者はスキーパトロールの仕事をしていた。ある日の午後、山の中腹で膝を痛めたデイブという40代の男性に付き添っていた時のことだ。小型のそりにデイブを乗せて麓の診療所までスキーで運んでいると、彼が卑猥な言葉を投げかけてきた。
膝の痛みのせいではない。筆者に落ち度があるとすれば、女性であることだった。
筆者は、サポートに入っていた男性のパトロール隊員にささやいた。「トム、デイブは女性にそりを引かせるのが不愉快みたいだから、あなたに代わったほうがいいみたい」
トムはデイブにも聞こえるくらい大きな声で答えた。「逆だよ。デイブの抗議は言いがかりだ。きみがそりを引いて滑る腕前が、女性にふさわしい敬意を彼の中に芽生えさせる助けになるかもしれない」
2020年の一連の出来事によって、私たちはあることをあらためて認識させられた。ジェンダーや人種、出身国、宗教、性的指向、年齢、精神疾患、身体的な制約など数え切れない要因のために、人は日常的に偏見や暴力、医療アクセスの欠如など、さまざまな形の不公平の犠牲になっているのだ。
私たちの多くは、社会正義などの社会的大義を推進したいという気持ちに駆られている。しかし一方で、起きている時間の大半を、生活のための仕事に費やさなければならない。
そこで、職場における日々の交流にアクティビズムを組み込む方法を、模索してはどうだろうか。筆者が「仕事を通じたパーパスの追求(job purposing)」と呼ぶこの戦術には、仕事をしながらソーシャルパーパスに関与したり、社会的大義に対して有意義な貢献をしたりできるように、働き方を調整することも含まれる。
トムは、デイブの性差別的な発言に対応することを通じて、仕事上のやり取りにアクティビズムを組み込んだ。つまり、仕事でソーシャルパーパスを追求したのだ。