片頭痛のマネジメント
次に、片頭痛に対する認識を高めるための取り組みに加えて、多くの研究では(アブセンティーイズム〈病欠〉とプレゼンティーイズムの両方で)片頭痛が職場の生産性に与える影響を軽減するための有効な手段として、片頭痛マネジメントプログラムを明らかにしている。
これらのプログラムは企業によってさまざまだが、一般的には関心を持つ従業員に対して、医療従事者による評価あるいは診断調査により、自発的かつ匿名で片頭痛の評価を行い、その後、片頭痛と診断された従業員に任意で片頭痛マネジメントプログラムを提供するというものだ。
たとえば、ある研究ではスペイン郵政公社で実施された片頭痛マネジメントプログラムの効果を追跡調査した。このプログラムでは、全従業員に定期的に任意の健康診断のアンケートを送り、片頭痛の症状を訴えた従業員は、所属する支店の産業医の診断を受けるよう求められた。
片頭痛の診断基準を満たしている場合、予防薬や発作の際の急性期治療薬が提供され、発作を誘発したり悪化させたりする生活習慣や食生活の要因(ストレス、明るい光、悪い姿勢、特定の匂いや食べ物など)を医師が説明するカウンセリングも行われた。
その結果、プログラム開始後、片頭痛による従業員の欠勤が53%減少し、片頭痛の発作が起きた日の生産性が59%から94.8%に向上。生産性低下のコストが、従業員一人当たり片頭痛1回につき34.5ユーロから4.6ユーロに減少した(約90%もの減少だ)。
当然ながら、治療費は地域の医療制度によって異なることにも注意が必要だ。スペインの研究では、プログラムの費用は研究者と政府資金で分担されたが、多くの場合、企業はプログラムを実施する前に、保険の適用範囲やプログラムに伴う自己負担を考慮しなければならない。
筆者らはまた、スイスの製薬会社で実施された片頭痛マネジメントプログラムのコストベネフィット分析を行った研究についても調べた。この製薬会社では全従業員を対象に、メール、公共スペースに設置した情報ブース、講演会、ニュースレター、パンフレットなどを用いた大規模な啓発キャンペーンを実施した。そしてキャンペーンの後、従業員には遠隔医療相談を通じて、匿名で神経科医の診断を受ける選択肢が与えられた。
片頭痛と診断された従業員には、スマートフォンを使った月6回の個別のコーチングセッションなど、さまざまな治療方法が提供された。これらのセッションでは、片頭痛の誘因を特定して回避したり、薬の使用を最適化したりするなど、片頭痛の予防とマネジメントの方法を参加者に指導した。
こうした包括的なプログラムには、当然ながら多額の費用がかかる。雇用主が負担した費用は、6カ月間のプログラムを完了した参加者一人あたり920スイスフラン(約1000ドル)で、早期にプログラムを中止した参加者はその半分程度だった。
しかし調査の結果、コスト以上の価値があることがわかった。プログラム終了後、片頭痛による欠勤はほぼ50%減少し、片頭痛によって生産性が少なくとも50%低下した月間平均日数も3.9日から1.6日に減少した。これにより、プログラムを完了した従業員の生産性の向上は年間平均10.8日以上に相当し、費用対効果は(生産性向上の効果をプログラムの総費用で割ったもの)はほぼ5倍に上った。