●新規事業で有機的な成長機会を創出する
オーガニックな成長機会として新規事業の創出を目指す場合には、企業は自社の持つ卓越性を十分に活用し競争優位性を築きつつ、スタートアップ企業のような思考や行動様式を組み合わせて新規事業を創出することが重要である。
マッキンゼーでは、過去3年間で200件以上の新規事業構築にパートナーとして携わってきた経験を基に、Leap(リープ)と呼ばれる新規事業構築アプローチを提唱しており、5Bのフェーズを踏んで新規事業を創出することを提案している。
Breakout(ブレイクアウト)フェーズ
外部投資家や外部の起業家を交えた社員参加型のワークショップを通じて、自社の圧倒的な優位性を特定、ユーザー調査を基にした顧客ニーズにつながる有望なアイデアを絞り込む
Blueprint(ブループリント)フェーズ
市場機会を検証して、アイデアの可能性を見極める。事業計画や開発ロードマップのチーム編成を迅速に行い、アジャイル開発手法に沿ってプロトタイプを作成する
Build(ビルド)フェーズ
事業の本格的な立ち上げのために推進サポート体制を整え、顧客向けに営業活動を開始するとともに、将来の組織づくりのための採用活動を本格化する
Boost(ブースト)フェーズ
人員補充、マーケティングやオペレーションの改善を通じて事業規模を拡大とともに、新たな資金の調達も検討する
Branch(ブランチ)フェーズ
既存事業への統合、既存事業からの切り離し、あるいはエグジットするかどうかを判断する
この5Bのアプローチでは、親会社のコアなケイパビリティと知識を活用するボトムアップ型のアプローチ、スタートアップのようなアジャイルな行動と思考のアプローチを併用している。
そして、新規事業に投下される資本も、年間予算という形でプロジェクトに提供されるのではなく、5Bに連動する形で、マイルストンごとに投下される形にする。
そうすると、マイルストンをクリアできているかの評価を厳正に行うことが鍵となり、事業計画のさらなる深掘りを断念させること、宿題をクリアできないと次に進ませない、といった判断を下すことになる。
こうすることで、自社が持つ強みを生かしたプロセスに、規律を持った投資判断を連動させて、投資対効果の高い新規事業投資を行うことができる。
例えば、日本のある大手電機メーカーでは、マッキンゼーと共同で、共通のプロセスを踏んで事業計画を立案していくチームとともに、外部の投資家・起業家を含む「事業性評価ボード」を組成し、マイルストンの設定とそれに合わせた追加予算の提供プロセスを構築した。
これにより、30以上の新規事業アイデアを絞り込み、最終的には3つの事業計画を立てることができた。潜在的な売上規模は10億ドル以上と見込まれている。
また、別の会社では、Leapのアプローチを活用して新たな事業アイデアを数十個創出した。それらの事業をまとめて、企業成長のための一連の投資ポートフォリオとして捉えて、自社の「コーポレート・インキュベーター」なる組織のもとでパフォーマンス管理を行い、予算配分や、進行か中止かの判断を厳格に行っている事例も存在する。
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マッキンゼーの調査によると、レジリエンスの高い企業(危機下においても、成長期においても業績が同業他社を上回っている企業)は、景気後退期にはキャッシュを確保する活動を加速させて競合他社比20%程度多くの現金を手元に残している。
そして、景気後退期の終盤には成長機会に投資を加速し、競合他社が景気後退期と比べて約25%設備投資額を増やしたのに対し、その数倍以上の金額を投下した。
また、事業部門間では資本を柔軟に再配分して変化するトレンドを捉えたポートフォリオを構築し、過去の1.2倍以上のM&A案件を実行し、需要の増加が見込まれる新規事業や成長が見込まれる地域に対する投資を積極化している。
コロナ禍の中ではキャッシュ(現金)の重要性が認識された。それを一時的な危機回避策と捉えず、日常的なキャッシュエクセレンス、そして資本の最適配分のアプローチへと発展させていくことで、企業は株主の資本効率性に対する要請にこたえつつ、規律のある資金投下と成長の実現を目指すことができる。
我々の分析によると、金融危機からいち早く脱却し、積極投資へと舵を切った企業は、その後10年以上にわたり高いTRSの観点から高いパフォーマンスを維持した。
今回の危機をきっかけとして、資金を生み出す強靭な組織へと進化し、資本を適正に割り当てて企業価値の向上に取り組むべきである。
【注】
エコノミック・プロフィットとは、[税引き後営業利益-加重平均資本コスト(WACC)×投下資産]で計算される、企業がどれだけ経済的付加価値を生み出したかを測定する指標。