●福利厚生制度の拡大および変化

 この調査で話を聞いた企業幹部たちは、コロナ禍で社員と会社に大きなダメージが及んでいることを認識していた。生産性が低下し、社員の定着率が落ち込む一方、欠勤が増え、メンタルヘルスの状態が悪化しているのだ。

 そこで回答者の大半(98%)は、少なくとも一種類の福利厚生制度の新設か拡大を予定していた。その際、育児や介護、働く時間と場所の柔軟性、メンタルヘルス関連の支援など、社員が特に重んじている要素を重視している。

 一方、こうした必要不可欠な支援を充実させるのと引き換えに、89%の企業幹部は、少なくとも一種類の福利厚生制度の優先順位を引き下げると述べた。たとえば、職場での託児サービス、有給休暇、通勤手当、学費の支援、社員食堂などである。

 ●育児と介護の支援は不可欠

 ワークとライフの「バランス」を取るというのは、常に現実離れした考え方だった。ワークとライフは互いに独立したものではない。両者の50対50のバランスを目指せばよいわけではないのだ。ワークとライフは深く結びつき、互いに影響を及ぼし合う。

 問題は、ライフを軸にワークを組み立てるのではなく、ワークを軸にライフを組み立てることを余儀なくされている人が極めて多いことだ。その結果、2020年2月から9月の間だけで、5歳から17歳の子どもがいる親が120万人も米国の労働市場から退出した。

 そうした状況に追い込まれるのは、女性の場合が極端に多い。企業としては、このような大々的な人材流出を放置するわけにいかない。

 コロナ禍により、企業はこの問題に対応せざるをえなくなった。社員が生産性を維持し、仕事で成果を上げるために、育児・介護関連の福利厚生制度が欠かせないことを思い知らされたからだ。

 ワークとライフの両面で社員への支援を強化するために、育児・介護関連の福利厚生制度の優先順位を高めつつあると、57%の企業幹部は述べている。既存の育児関連の福利厚生制度を強化する計画だと述べている人も63%に上った。

 具体的な内容としては、託児サービスを探すためのオンラインサービス利用料の支援、緊急時の保育サービス利用料の支援、はじめて親になる社員への支援、育児手当の支給などが挙げられる。

 ある回答者は、こう述べている。「社員は、家庭生活を自宅の戸口に置いて、会社に出勤するわけではない。家庭での心配事は職場にも持ち込まれる。その結果、生産性にも悪影響が及ぶ」

 企業は、高齢者の介護を担う社員の苦境にも目を向け始めた。高齢者介護についてケア・ドットコムが行った調査によれば、親が健在の成人の83%は、コロナ禍の中で老親の介護に関して新しい選択肢を求めた。高齢者施設でのケアから自宅でのケアへの転換を検討している人も89%に上った。

 米国の労働力人口の約17%は、高齢の家族を介護している。そのうち半数近くは、18歳未満の子どもの育児と高齢者の介護という二重の負担を強いられている。家族の介護を担っているのは、X世代やベビーブーム世代だけではない。高齢者の介護を無報酬で行っている4100万人のうち、1000万人はミレニアル世代だ。

 このような現実を考えれば、企業が福利厚生制度の平等を最優先課題と位置づけているのも不思議でない。回答者の41%は、高齢者介護関連の福利厚生制度を新設したり、拡充したりするつもりだと答えている。

 ある回答者はこう語った。「高齢者のケアは子どものケアと同じくらい重要だと思うようになった。家族の世話をしなくてはならない人は、仕事に集中しづらい」