●働き方(とケア)の未来は柔軟性にあり
2021年には、オフィス勤務とリモート勤務を併用するハイブリッド型の働き方が広がり、定着する可能性が高いと予想されている。PwCの調査によれば、コロナ後も全面的にリモート勤務で働き続けたいと考える人もいるが、オフィス勤務を完全にやめたいと思っている人はそれよりはるかに少ない。
このような働き手を会社に引きつけ、つなぎとめるために、企業はハイブリッド型の働き方と生き方をうまく機能させるための選択肢を増やそうとし始めている。この傾向は、ケア・ドットコムの調査結果にも表れている。回答者の66%は、働き方の柔軟性を高めたり、会社のコストを直接増やさないような家庭生活支援策を導入したりすることを計画していた。
さまざまな業種でオフィス以外での勤務が一般的になるのに伴い、人事部門のリーダーたちは、オフィスに出勤して働く社員だけでなく、あらゆる場所で仕事をする社員を支援するために、柔軟な働き方を可能にする福利厚生制度の提供を計画し始めている。
たとえば、職場での託児サービスの優先順位を下げ、柔軟な子育て支援体制を充実させようとしている。回答者の61%は、コロナ前よりも柔軟な子育て支援体制の整備に力を入れているという。大半の企業は、社員が保育・介護サービスや緊急時の託児サービスを探すためのオンラインサービスの利用料を支援する制度の新設・拡充を計画している。
すでに職場での託児サービスを設けている企業は、必ずしも既存のサービスを打ち切るわけではない。しかし、新しいタイプの福利厚生制度を導入することにより、社員がいつ、どこで、どのように働いていても支援しやすくなり、リモートワークで働く人たちをこれまでよりも公平に扱えるようになる。
●社員と家族のメンタルヘルスは極めて重要だ
コロナ禍が人々のメンタルヘルスとウェルビーイングに及ぼしている影響は計り知れない。そのダメージを取り除くためには、非常に長い時間を要する可能性もある。
そこで企業は、社員に影響を及ぼすメンタルヘルス関連の問題を和らげる取り組みを始めている。そうした問題の一つが、コロナ以前から世界規模で深刻な問題になっていたバーンアウトである。
バーンアウトと職場のウェルビーイングに関する専門家のジェニファー・モスも指摘しているように、燃え尽きは社員だけに関わる問題ではない。それは企業の問題でもあり、企業主導で解決すべきものだ。福利厚生制度を拡充するだけではバーンアウトを防げないが、社員にとって真に必要な職場文化を生み出す第一歩になる可能性はある。
コロナ禍に伴うメンタルヘルス関連の問題で打撃を被っているのは、社員自身だけではない。社員の子どもたちにも悪影響が及んでいる。
オンライン学習を強いられ、孤独と不安にさいなまれる日々が長く続いて、子どもたちのストレスと不安と抑鬱が強まっている。米国疾病対策センター(CDC)によれば、2020年のメンタルヘルス関連の救命救急科受診件数は、5~11歳の子どもで対前年比24%増、12~17歳で対前年比31%増となった。
幸い、回答者の41%は、メンタルヘルス関連の福利厚生制度の拡充を計画している。59%は、育児・介護関連の福利厚生制度の主たる恩恵の一つとして、社員のメンタルヘルスの改善を挙げている(この割合は、2000人超の社員を雇用している企業では68%に達する)。
●福利厚生制度とアクティビズムが変革を生む
未来の福利厚生制度のあり方がどうなるかは、企業だけでなく、州政府や連邦政府の政策にも左右される。
米国救済計画法という法律の成立は極めて重要な一歩だが、コロナ禍によりますます悪化した3つの危機――育児・介護の危機、女性の雇用危機、メンタルヘルスの危機――を解決するためには、粘り強い不断の努力とイノベーションが不可欠だ。企業のCEOと人事責任者は、そうした取り組みの先頭に立たなくてはならない。
だからこそ、私はほかの男性たちとともに、「母親のためのマーシャルプラン」への支持を表明した。この呼びかけは、目にとまりにくい母親たちの働きに経済的報酬を支払い、育児休業制度の充実、安価な託児サービスの整備、給料格差の是正を目指す政策を導入することを求めるものだ。
時代の先を読める企業は、政府が行動を起こすのをいつまでも待つ必要はない。すぐに動いて、社員が自分自身と家族をケアするのを支援すべきだ。それを通じて、職場のパフォーマンスも高めることができる。
コロナ後の「ニューノーマル」は、コロナ以前の「ノーマル」と同じものである必要はない。むしろコロナ前とは違う状態をつくり出すほうが、好ましいのだ。
HBR.org原文:The Pandemic Is Changing Employee Benefits, April 07, 2021.