なぜ育児がビジネスの問題でないのか

 筆者らの調査では、パンデミックの間に失業した女性の26%が、育児の担い手が他にいないことを理由に挙げていた。

 また女性は、料理や掃除に加えて、子どもの勉強を見たり子どもと遊んだりするのに費やす時間が大幅に増えたと報告した。一方、男性が家事に費やす時間は微増にとどまった。働く女性はこれまでも常に、家事の責任をより多く負担してきたが、コロナ禍でワークライフバランスを取ることは、圧倒的に女性にとって難しくなった。

 シングルマザーと有色人種の女性は特にそうである。筆者らの調査では、育児のために勤務時間が減ったと報告する人の割合は、黒人女性(黒人23%に対し非黒人15%)、独身女性、そして夫と離婚・別居・死別した女性(非婚・未婚22%に対し既婚15%)が多かった。

 米国のカマラ・ハリス副大統領は『ワシントン・ポスト』紙で、女性にとって切実なこの問題を取り上げ、女性が完全な形で参加できない限り、経済は完全には回復しないと述べている。「手頃で利用しやすい育児支援がなければ、働く母親は不当な選択をせざるをえない」

 データによると、女性が男性と同じ比率で労働力に加われば、米国のGDPは、5%向上する可能性がある。

 こうした経済の現実と、筆者らの調査が明らかにした真実を踏まえて、ここで問いたい。なぜ育児はいまだに従業員の問題であって、ビジネスの問題ではないのか。

育児をビジネスインフラの一部にする

 歴史を振り返ると、苦難の時期が刺激となり、従業員の福利厚生に変化をもたらしてきたことがわかる。世界恐慌をきっかけに社会保障法が成立し、第2次世界大戦と安定化法を契機として、最初の健康保険給付が支給された。また労働組合の台頭によって、家族の歯科や眼科の治療費を含め、より包括的な医療補償が提供されるようになった。

 コロナ禍も、働く親、特に女性のための変化を生む新たな機会を提供している。

 1950年には労働人口に女性が占める比率は30%だったが、2018年では62.7%に上る。にもかかわらず、今日の従業員向けの福利厚生が生まれたのは、ほとんどの世帯で働き手の親が1人だけで、しかもそれが男性だった時代である。

 雇用者が福利厚生を考える時、育児支援の提供は眼中になかった。すでに女性が家庭で(無償労働として)行っていたからである。第2次世界大戦中、戦地に赴く男性に代わって女性が仕事を引き継いだ時、著作家のG. G. ウェザリルは「空気圧リベッターを握る手で、同時に揺りかごは揺らせない」と皮肉った。

 これに対応して登場したのが、画期的なランハム法に基づくプログラムだった。働く親のために所得に関係なく連邦政府が補助金を出した、最初にして唯一の育児支援プログラムである。

 残念なことに、戦争が終わるとプログラムも終了した。男性は職場に戻り、女性は家に戻って(相変わらず無償の)仕事を再開した。ランハム法の育児支援プログラムの終了を受けて、エレノア・ルーズベルトは、「国中の育児支援センターが閉鎖されたことで、こうした育児支援センターに真のニーズがあったという確かな事実があぶり出された」と述べている。

 いまでも真のニーズがある。コロナ禍は、これまで見えなかった(あるいは忘れられていた)育児と経済の関連性を浮き彫りにした。育児支援は女性が仕事を続けるための命綱なのだ。2020年2月以降、230万人以上の女性が労働人口から消えた。それはコロナ禍で職探しを諦めた失業者の80%を占め、労働参加率は1988年以来最低の57%にまで低下した。

 コロナ禍以前でさえ、育児支援が不十分なことによる働く親の逸失所得は年間370億ドルであり、雇用側の生産性の損失は年間130億ドルに上っていた。『バロンズ』誌は筆者らのデータを基にして、パンデミックによる休校措置がもたらした収益および生産性の損失は7000億ドルに達し、GDPにして3.5%の損失になると推定している。

 調査対象とした親の3分の2近く(63%)は、パンデミック中に育児支援サービスを探すのに苦労し、そのうち33%は非常に苦労したと回答した。わずか6カ月前と比べて、ほぼ倍増したことになる。黒人やヒスパニック系の家庭では、この数値はさらに悪かった。

 パンデミックの間に、働く親は子どもの面倒を見てくれる人がいないことが原因で、平均週8時間の労働時間を失った。配偶者やパートナーが失った労働時間を合わせると、週14.6時間という大変な損失になる。これは職員の削減、事業の損失、リモートワークが利用できないことによる時間の損失と同様の規模である。

 雇用者が、医療やその他のビジネスインフラを整えるのと同じ真剣さで、早急に育児支援の提供に取り組むなら、それだけ早く、従業員は仕事に完全復帰できる。

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