
リモート環境ではさまざまな問題、特に生産性が大きな課題として取り上げられてきた。だが一方で、過小評価されてきた問題がある。社会的つながりの欠如、偶然の出会いの消滅、そして思いやりがもたらすポジティブな影響だ。賛辞したり評価したりする行動は、相手の自己肯定感や自己評価を高めるだけでなく、自身のウェルビーイングや幸福感を向上させる。それをチーム全体に波及させれば、さらに多くの恩恵を得ることができるのだ。本稿では、思いやりがもたらす恩恵を提示し、リーダーがリモート環境という障壁を乗り越えて、組織に思いやりの文化を醸成するための手法を紹介する。
誰もが幸せになりたいと望んでいる。だが、このとらえどころのない目標をどうすれば達成できるのか。これは昔から難しい問題だったが、コロナ禍を経たいま、考えることさえ不毛に感じられるかもしれない。
働く親は、リモートワークと子どものオンライン授業のバランスを取らなければならない。一人暮らしの場合、隔離生活で集中力を維持するのに苦労しているかもしれない。ズーム会議が続く毎日では、シャワーを浴びることさえ偉業に感じられるかもしれない。
職場がオンラインミーティングの連続に変貌したことは、別の社会的剥奪が生じる原因になった。セレンディピティ、すなわち偶然の出会いの消滅だ。多くの人々にとって、同僚が廊下で「どうもありがとう」と言っているのが聞こえたり、プレゼンテーションの後に上司が「すごくよかったよ」と声をかけてくれたりすることは、オフィスで仕事をする中で最高の瞬間だった。
いまや、そうしたことは前世の出来事のように感じられる。同僚との井戸端会議やカジュアルランチ、そしてコーヒー休憩がなくなり、以前のような社会的つながりを築く機会はなくなった。これでは、仕事に喜びを見つけるのはずっと難しいかもしれない。では、私たちはどうすればよいのだろうか。
そこで、筆者らは少しばかり謙虚な提案をしたい。思いやりだ。
この1年間、企業経営に関するアドバイスは、そのほとんどがコロナ禍の中で生産性を維持するにはどうすればよいかというものだったが、思いやりの力は見過ごされてきた。賛辞の言葉や評価の言葉をかけるといった思いやりある行動の実践は、私たちのリモートワークプレイスを一変させる威力がある。