なぜ、ほめ言葉を口にした本人が、これほど幸せだと感じるのか。そのカギを握るのはコロナ禍の間に大きく欠けていたウェルビーイングの重要な材料、すなわち社会的つながりだ。

 筆者らの研究では、ほめ言葉は言われるよりも言うほうが、より強力な社会的つながりを生み出すことがわかっている。なぜなら、誰かをほめるためには、その相手に注目しなければならないからだ。

 たしかに、相手からほめられるのは気持ちがよいが、よく考えられた純粋なほめ言葉を口にするには、相手の精神状態や行動や性格、思考、感情に思いを馳せる必要がある。相手について考えることは、相手との間につながりを感じる前提条件になることが多い。このように、ほめ言葉は社会的接着剤の役割を果たし、人間同士の結びつきやポジティブな人間関係を促し、私たちをより幸せにする。

 にもかかわらず、人々は誰かをほめることを躊躇することが多い。なぜだろうか。

 ペンシルバニア大学ウォートンスクール博士研究員のエリカ・ブースビーとコーネル大学ILRスクール准教授のバネッサ・ボーンズによる最近の研究では、誰かに近寄って何かよいことを言うのは、かえって社交不安や不快感を引き起こす可能性があることを示している。そのため私たちは、誰かをほめると、その相手は居心地悪く、不快に感じるだろうと思い込んでいる。だが、実際はその逆だ。

 こうした心理的障壁に加えて、リモートワークでは、思いやりや賛辞の言葉、評価を示すことに対する構造的障壁が存在する。

 コロナ禍の前は、会社の公式プログラムを通じて従業員の評価が示されることも多く、オフィスで偶然出会えば、その場でシンプルな感謝の言葉や称賛の言葉を簡単に口に出すことができた。これとは対照的に、現在のズーム会議ではアジェンダに厳格に従うことが重視され、予定外のトピックを扱ったり、ましてや誰かを称賛したりする余地はないことが多い。

 組織は、思いやりを積極的に醸成することで恩恵を得る。思いやりのある行動が規範となっている職場では、すぐに波及効果が生まれる。研究結果示しているように、人間は思いやりのある行動をされると、自分も同じようにしようとするからだ。それも相手に対してだけでなく、他の人たちに対しても思いやりを持って接しようとする。その結果、組織全体に寛容の文化が育まれる。

 3500以上の事業部門の5万人以上を分析した画期的な研究では、礼儀正しさや手助け、称賛の行動は、組織の中核的目標の達成レベルと関連していることがわかっている。思いやりの実践レベルが高ければ、生産性や効率性は高く、離職率は低くなることが予想される。リーダーと従業員が互いに思いやりを持って行動することで、コラボレーションとイノベーションの文化を育むのだ。