給料以外にも目を向ける

 実存的な問題が主たる関心事になった人は、お金よりもやりがいを大切にする可能性がある。そこで、マネジャーは給料やその他の物質的な恩恵だけでなく、従業員が人生の意義を実感したいというニーズを満たせるよう支援することを考えるべきだ。

 最近のある調査によれば、回答者の60%は、リモートワークなど柔軟な働き方と引き換えに給料が下がっても構わないと答えている。リモートワークやフレックスタイム制度は、それによって家族や友人と過ごせる時間が増えるのであれば、人生の意義を見出したい人たちには魅力的に感じられるかもしれない。筆者の研究チームの調査によれば、人生に意味を与えているものは何かという問いに対して、最も多かった回答は、家族や愛する人たちとの親密な関係だった。

 マネジャーは、仕事の時間とプライベートの時間の境界線を明確化させることにより、仕事からの「アンプラギング」を重んじる職場文化を育んでもよいだろう。そのためには、たとえば勤務時間外に部下にメールを送信しないようにすればよい。

 この点は、リモートワークが続くにつれていっそう難しくなるが、それに伴い、その重要性はますます高まっていく。研究によると、勤務時間外にメールをチェックすることが期待されると、従業員のウェルビーイングが低下し、転職の意思が強まるという。

 従業員は、仕事と、仕事以外の人生を充実させることの間で、バランスを取りたいと願っている。マネジャーが従業員のそのような思いを支援できればできるほど、自社に人材を引きつけ、つなぎとめやすくなる。そして、そうした環境で働く従業員たちは、幸福感をいだき、仕事へのエンゲージメントが強まる傾向がある。

 こうしたことは、コロナ後の時代にいっそう重要になるかもしれない。コロナ禍の経験を通じて、自分たち家族の人生がどのように変わったかを考える人が増えると予想できるからだ。

 ピュー・リサーチ・センターは、米国の成人に対して、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、人生にどのような好ましい影響と悪い影響があったかを尋ねた。悪影響を受けた要素として最も多くの人が挙げたのは、人間関係だった。回答者の41%は、家族や友人と会えずに寂しいと答えている。一方で、コロナ禍により、配偶者や子どもなどの家族と過ごす時間が増えたと答えた人も33%いた。

 要するに、コロナ禍は、人々に人間関係の重要性を再認識させた。大切な人と一緒に過ごせない人生がどのようなものかを思い知らせ、大切な人と多くの時間を一緒に過ごせる人生がどのようなものかを知らしめたのだ。

 コロナ後の世界では、人々は大切な人と過ごす時間から充実感を得たいという思いを強めるだろう。マネジャーは、その点を頭に入れておく必要がある。