
コロナ禍は大学教育の態様を大きく変えたが、ポストコロナに向けては、キャンパスに戻る、対面授業とオンライン授業を組み合わせる、あるいは完全にオンライン化するといった3つの戦略が考えられる。一方で、安価で高品質な教育コンテンツを提供するEdTech(エドテック)系スタートアップが台頭する中、大学機関は彼らに対抗するのではなく、外部パートナーとして迎え入れることを筆者らは提案する。本稿では、入学選考から学位授与まですべて内製だった大学のサプライチェーンをみずから変革し、EdTechの優れた部分を組み込むことで、高等教育の未来像はどのようなものになるかを論じる。
2021年6月末、EdTech(エドテック)企業の2Uが、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が創設したオンライン学習プラットフォームのエデックス(edX)を買収すると発表した。このことは教育ビジネスをどう変えるのか。そして、伝統的な教育機関はどうすれば適応できるのか。
近年の3つの動向は注目に値する。第1に、デジタル技術が成熟し、旧来の大学教育モデルに破壊的変革をもたらせるまでになった。大学教育の主な態様、すなわち教室モデルは何世紀にもわたり、学生が決められた時間に、決められた場所に集まり、教授する側のペースで物事を教えてもらうというものだった。
それが、カーンアカデミーやコーセラなどの大規模公開オンライン講座(MOOC)、アウトライアー・オーグやユダシティ、エデックスなどのEdTech系スタートアップが、オルタナティブ教育のプロバイダーとして、その旧式モデルを変えている。
彼らは、オラクル、マイクロソフト、グーグル、そしてズームなどが開発したハードウェアとソフトウェア、そしてコミュニケーション技術の進歩を活用して、学生が自分の都合のよい時間に、自分のスペースでオンライン学習することを可能にしている。
第2に、予期せぬ出来事が発生したことにより、新しいアイデアについて組織的な大規模実験が行われると、社会とビジネスの両方に何らかの地殻変動が起きるものだ。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、まさに世界中の教育機関がほぼ同時に、授業をデジタル化するという実験を強いられた。それも、準備期間はわずか1週間だ。従来であれば、学生や学校当局、教員の抵抗に遭うこともあり、とうてい考えられなかった実験だ。
どちらかといえば硬直的で、変化を嫌うことで知られてきた大学教育が、前例のない揺さぶりを受け、その結果として始めることになった実験により、従来のモデルとは異なる教育方法があるだけでなく、ある意味ではオルタナティブ教育のほうが優れていることが示された。
パンデミックは、大学教育から切り離すことができない部分と考えられてきた大規模なインフラ(階段教室、実験室、劇場、事務棟、フラタニティやソロリティに代表される学生組織など)がなくても、教育を提供できることを大学に教えた。これらのほとんどは、パンデミック中の一定期間、使われることがなかった。
第3に、伝統的な大学が、予算カットや財政的なプレッシャーに直面する中、ディスラプティブなEdTech系スタートアップのバリュエーション(企業価値評価)は急上昇している。彼らは、資金も潤沢だ。
インドの元数学教師ビジュ・ラヴェンドランは、オンライン学習プラットフォームを運営するビジュスを立ち上げた。これに120億ドルというバリュエーションがついたことで、彼は大富豪になった。2UがedX買収に支払う8億ドルも、株式ではなくキャッシュだ。
2020年、米国のEdTech系スタートアップは22億ドル以上を調達している。別の言い方をすれば、現状維持ではなく、教育を変革しようとする人々に資金がますます流れ込んでいるのだ。
では、大学機関に何ができるのだろうか。まず何よりも、未来を見据えて、以下の3つの戦略のどれを採用すべきか判断する必要がある。