●拡張的なイマーシブ・レジデンシャル・モデル

 学生がキャンパスに住みながら、友人や教員と対面交流するモデルだ。このモデルは多くの目的にかなうが、莫大な費用がかかる。そのため、高いブランド認知度、裕福な寄付者や世界レベルの教授陣へのアクセス、名門企業への就職、そして影響力のあるアルムナイ組織が揃うトップクラスの大学であれば、うまくいくモデルだ。

 ●ハイブリッド・モデル

 大学も学生もリソースが限られている場合のモデルだ。限られたリソースは、対面交流(学生と大学に最大限のコストがかかる)と、非同期オンライン学習(コストは安い)の間で、最適のバランスで分配される必要がある。

 理想としては、キャンパスで行われるのは、研究ベースの授業や、個別の問題解決、メンターシップを要する活動に限定されるべきだ。

 学生の場合、キャンパスで過ごす貴重な時間は、選択授業やグループ課題、教員のオフィスアワー、キャリアガイダンスといった、リモートで行うのは難しい活動に使わなくてはならない。キャンパスは、社会的ネットワークを構築したり、フィールドワークに基づくプロジェクトやグローバルな教育研修を行ったりする場所としても利用されるべきだ。

 対照的に、人的交流をほとんど必要としない講義は、デジタル化しなければならない。学生は自分のペースで、イマーシブ(没入型)のインタラクティブテクノロジーを使った、マルチメディアのプレゼンテーションを視聴することができる。

 たとえば、ピタゴラスの定理は世界中どこでも、ほぼ同じように教えられる。こうした授業は、テクノロジープラットフォームを使って大規模なオーディエンスに提供しても、教室で行われる対面授業の重要な要素、つまりソーシャルエクスペリエンスを犠牲にすることはない。そもそも入門レベルの授業はどれも、ソーシャルエクスペリエンスがないからだ。

 ●完全オンライン・モデル

 これは質の高い教育を、完全なるバーチャルオーディエンスに提供するモデルだ。

 2Uは今回の買収でエデックスの資産、すなわちブランド、およそ3500のオンライン講座、そしてウェブサイト(5000万人の学生が含まれる)を手に入れる。これは潜在的な学習者市場の氷山の一角にすぎない。

 たとえば、高校卒業者の多くは、大学に足を踏み入れたり、仕事を辞めたりすることなく、低コストで質の高い教育を受けたいと思っている。ただし、ただ動画を視聴できればよい、というわけではない

 彼らが求めているのは、トップクラスの大学のトップクラスの教授の授業から学ぶことだ。また、カスタマイズされたオンライン学習技術を利用して、内容の理解度について試験を受けたいとも考えている。

 そして、そうした学習と試験結果が、正式な単位として認められることを求めている。さらに、単位を積み上げて、自分のコンピタンスや能力、知識を証明する認証を得ることを望んでいるのだ。

 これらすべてを成し遂げるのに、劇場や寮、学習室、美術館、フットボールスタジアム、部活動、フラタニティやソロリティ、体育館といった施設に費用を払うことはないと考えている。

 ハーバード大学とMITはエデックスを売却するにあたって、新たなビジネスモデルにコミットしていることを示している。つまり、一握りの選ばれた学生のために優れたレジデンシャル・モデルを継続しつつ、その専門性とリソースを利用して手の届きやすい金額で質の高い教育を大衆に提供していくのだ。

 両大学はすでに、エデックスのために素晴らしいコンテンツを開発し、8億ドルを得ようとしている。その資金を使って、今後もオンライン戦略をさらに拡大するだろう。

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 2Uによるエデックス買収のニュースは、のんびり構えていた他の大学を叩き起こすだろう。政府の補助が少ない、入学者が減っていると文句を言っている場合ではない。どうすれば質の高い教育を低コストで提供するエコシステムを組織として構築できるか、自問する必要がある。

 こうした大学の現在のモデルは、入学審査から学位授与まで、バリューチェーンのすべてを内部で処理する垂直統合型だ。このバリューチェーンをどのように分解して、それぞれについて、大学より上手に対応できる組織があれば、アウトソースすることを検討しなければいけない。

 たとえば、教育コンテンツを作成するのはアウトライアー・オーグに、アウトリーチプラットフォームはエデックスに、そしてイマーシブな拡張現実(AR)体験の構築はゲーム業界に、それぞれアウトソースすることができる。

 大学は外部パートナーに対抗するのではなく、彼らと手を組みつつ、バリューチェーンのほとんどの部分をコントロールすることによって、EdTech系スタートアップに流れ込んでいる資金のかなりの割合を獲得できる。こうした「追加収入」は、大学が独自のEdTechイニシアティブを加速するシードマネーになるはずだ。

 現時点ではまだ、多くの大学がこうしたゲームの観客席に留まっている。


"What the edX Acquisition Means for the Future of Higher Education," HBR.org, July 15, 2021.