●ワクチン接種を促す
新型コロナウイルス感染症による重症化、入院、死亡を防ぐうえで最も有効な方法がワクチン接種であることには、現在も変わりがない。
これまでも大半の企業は従業員にワクチン接種を推奨してきた。筆者らが2021年5月に米国企業を対象に実施した調査によると、大多数の企業(全体の82%)は、ワクチン接種の重要性を従業員に伝えているという。この点は非常に大きな意味を持つ。従業員はパンデミックに関する情報源として、勤務先の企業を信頼しているからだ。
コミュニケーションが最も効果を持つのは、目先の恩恵を強調して、かつストーリーが盛り込まれている場合だ。データそのものは、ストーリーほどの説得力を持たない。ただし、コミュニケーションは文化的に適切なものでなくてはならない。従業員全体にワクチン接種の重要性を浸透させるためには、多様なインフルエンサーの言葉が有効だろう。
筆者らの調査によれば、62%の企業は従業員にワクチン接種のための休暇を認めており、58%は副反応休暇も認めている。また、一部にはワクチン接種手当を支給している企業もある(10%)。その金額はたいてい100ドル未満だ。
ワクチン接種への意欲がさほど強くない従業員に接種を促すには、接種を受けやすくすることが重要だ。その点、職場で接種を受けられるようにすれば、従業員の利便性は高い。
コロナ禍の初期には、職場でワクチン接種を実施できる企業は少なかった。ワクチンの供給が不足し、輸送や保管も難しかったからだ。しかし、現在は企業が職場でワクチン接種を行うことは、以前より容易になった(ただし、最近は薬局やスーパーマーケットや公共施設やクリニックで接種を受けやすくなり、職場で接種を行う必要性は以前ほど大きくないかもしれない)。
●ワクチン接種を義務化すべきかを検討する
感染力の強い変異体のデルタが出現したこと、そして新型コロナウイルスに感染した際に後遺症が長引く場合があることがわかってきたことで、オフィスで働く従業員へのワクチン接種の義務化に関心を示す企業が増えている。
筆者らによる5月の調査に回答した企業のうち、従業員のワクチン接種を義務化している企業は多くなかった(9%)。義務化している職場が最も多かった業種はヘルスケアと高等教育だ。しかし、米国食品医薬品局(FDA)が新型コロナウイルスのワクチンを正式承認すれば、ほかの業種でも接種義務化に踏み切る企業が増えるだろう。
米国人の約6%は、義務化されない限りワクチンを接種するつもりはないと述べている。ワクチンの接種義務化を検討している企業にとっては、ヒューストンで8つの病院を運営する病院グループのヒューストン・メソジストのガイドラインが参考になるかもしれない。
●オフィス勤務の再開を決める時は地域の感染率を考慮する
職場での感染リスクは、地域の感染率と強い相関関係がある。感染率が低い地域(人口10万人当たり10人未満)では、企業は安心して従業員の出社を再開できる。しかし、人口10万人当たりの感染者数が50人を上回っている地域もある。そのような地域で出社を再開すれば、従業員の誰かが職場にウイルスを持ち込む可能性が高い。
そのリスクを軽減したい企業は、オフィスの再開を先送りしたり、ハイブリッドワークの導入や、スケジュールをずらして出社する勤務体系の採用などを通じて職場に滞在する人数を抑制したりすればよい。