マネジャーにできること

 ダイバーシティ研修や暗黙の偏見に関するワークショップに、多額の資金を投じる組織が増えている。

 こうした取り組みは、会社の方針や法律、心理的プロセスなどの基本的な事実の教育には有益かもしれないが、健全で生産性の高い多様な労働力を確保するために必要となるインクルーシブな環境の創出には、ほとんど効果がないようだ。バーチャルな環境でどのようにつながりを築いて維持するかは、マネジャーの意図的な努力にかかっている。

 リーダーは細やかな介入──微妙な差別を防いだり、変えたり、やめさせたりするような日常的な言動──を通じて、差別的なインシビリティが起こりにくい状況をつくり、問題行為が起きた時に謝罪と成長の道を提供する。

 多くの企業がリモートワークやハイブリッドワークの導入によって実現しようとしている生産的で包摂的なチームの育成には、インシビリティの防止と介入が不可欠だ。チームの良好な関係を育むようなバーチャルワークを行うために、以下の助言を参考にしてほしい。

 ●敬意を持ったやり取りが求められていることを明確にする

 社会規範に取り組むことは生産性の向上に無関係だと考えるリーダーも少なくないが、無礼なやり取りをした後に反省する、サポートを求める、報復するといったことに費やす時間は、組織にとって時間とカネの無駄にすぎない。

 さらに、ミシガン大学のリリア・コルティナ博士らは、インシビリティの人的コストについて詳しく説明している。記憶力の低下、心血管系にかかる負荷、インスリンの分泌の乱れなどの生理的ダメージが、病気休暇の増加、メンタルヘルス問題の増加、家族関係への悪影響につながるのだ。

 チームに敬意が求められていることを明確にする方法の一つは、その点を基本原則に含むチームの協定を共同で作成することだ。

 たとえば、「ミーティングでは人の話に割り込まない」「自分のアイデアであることを誰でも明示できるように、投稿はチームのチャットに記録する」といったルールを決める。スマートフォンなどを併用して複数のタスクを行うことを制限したり、会議のプロトコルをより構造的にしたりして、人とのつながりや共同作業の機会を組み込むことも、職場での敬意を高める重要な原則になるだろう。

 敬意を払う基準を明確にし、建設的な会話や意見の対立に関する規範を決めることにより、リーダーもチームのメンバーも、低次元の無礼な振る舞いや軽視というパターンに対応する出発点を見出すことができる。

 ●対人的なミスは必ずフォローする

 最近よく耳にするのは、ズームで起きたミスの意味を理解しようとする人々の苦労だ。彼は私をじゃましようとしたのだろうか。なぜ私の投稿は誰にも気づかれずに埋もれてしまうのか。私がログインする時もログオフする時も、誰も気づかないようだ──。

 バーチャルな職場では、こうした曖昧なミスが起きた後に、上司に報告したり、同僚から社会的なサポートを受けたりする時間があまりない。そこで、人と人とのちょっとした合図の重要性を認識することにより、誰かが侮辱だと感じたことをフォローするという決まりをチームで共有できるだろう。

 バーチャルなやり取りは実際に会って話をするより希薄になりやすいため、ビデオ会議は誤解を招きがちだ。たとえば、最近チームでブレインストーミングをしていた時、筆者の一人はふと考え込んで、ウェブカメラを長時間、ぎこちなく見つめていた。これが対面であれば、気が散ったり退屈したりしているのではなく、熟考しているのだと容易に読み取ってもらえただろう。

 他人が感じる曖昧さを減らすために、このような「解釈がわからない」経験について質問しても気まずくならないようにする。そのきっかけになるのは、たとえば自分の潜在的なミスについて率直に話すことだ。気まずさを感じたことや、メッセージが適切に伝わったかどうか自信がないことを認めて、すぐにフォローする。

 リーダーはこのような瞬間から目をそらしてやり過ごすのではなく、立ち止まって、メッセージが正しく受け取られたかどうかを確認する。