
未曾有のコロナ禍を乗り切り、成長を遂げた企業もあれば、さまざまな措置を講じたにもかかわらず、倒れた企業もある。両者を分かつのは、当初の戦略計画に固執せず、環境変化に素早く適応できたかどうかだ。リスクを予測して打撃を回避し、受けてしまった衝撃は上手に吸収し、新たに見出した方向に向かって加速する。危機下にあっても業績を向上させるには、このように戦略的アジリティを実行することが書かせない。本稿では、エアビーアンドビー、カンタス航空、ウォルト・ディズニー・カンパニーをはじめとする実践例を交えながら、組織がそうした能力を持つための6つの原則について論じる。
2020年が幕を開けた頃、エアビーアンドビーは素晴らしい1年を迎えるように見えた。予約件数は伸びていたし、事業の拡大計画も定めていた。春には新規株式公開(IPO)も予定していた。
その後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、状況は一変した。10億ドル分を超える予約がキャンセルされ、事業の拡大計画は延期になり、従業員数の4分の1が削減された。しかし、2020年が終わる頃には、売上げは回復していた。12月に行ったIPOも、テクノロジー企業としては史上有数の成功を収めた。
一方、カリフォルニア・ピザ・キッチン(CPK)は、革新的なメニューで知られているピザチェーンだ。グルテンフリーのピザや、テイク・アンド・ベイク[編注1]のピザの販売、社内シェフを対象にした「料理の鉄人」方式のイノベーションコンテスト開催などに早い段階で乗り出していた。
パンデミックが始まるとすぐに、カーブサイドデリバリー[編注2]を採用したり、オンラインの能力を強化したりした。だが、旺盛なイノベーション精神と未来志向の発想で知られていた同社は2020年7月、破産申請を行った。
なぜ、このように成功する企業と失敗する企業があるのか。
一言で言えば、エアビーアンドビーのようにコロナ禍をうまく乗り切った企業は、当初の戦略計画に固執せず、環境変化に適応していた。
筆者らの研究では、そうした企業が3つの方法で変化に適応していることを突き止めた。一つは、素早く行動することにより、最悪の打撃を「回避」(avoid)すること。もう一つは、打撃を受けた時に、ダメージの多くを「吸収」(absorb)できるだけの強靭さを持つこと。そして残る一つは、十分なレジリエンスを持って、ライバルよりも素早く、有効に新たな動きを「加速」(accelerate)するというものだ。
筆者らはこの3要素を、それぞれの頭文字を取って、戦略的アジリティの「トリプルA」と呼んでいる。