●ショックを吸収する:エンパワーメントと多角化

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックのように、ショックを回避することが不可能な場合、次善の策はダメージを最小化することだ。

 だが、この点に関して誤解しているマネジャーが多い。ショックを吸収するための強力な手段のいくつか、すなわち規模の大きさ、非効率性、中央集権化は、変化の激しい環境で競争を有利に進めるうえで障害になると思われているのだ。

 しかし、これらの要素を適切に扱えば、組織のパフォーマンスを阻害することなく、ショックに耐える能力を高められる場合がある。

 原則3:最適化よりも多角化と「効率的な余剰」を優先する

 コロナ禍で多くの企業が苦戦を強いられ、その中で倒れてしまった企業もある。その原因として、迅速性とイノベーションが欠けていたからではなく、単一の強力な打撃によって大きなダメージを被ったことが挙げられる。

 このような状況を生み出す根本的な原因は、多角化の不足、あるいは効率化と最適化の偏重である場合が多い。

 近年、ビジネスの世界では、多角化と余剰を重視する考え方が支持を失っている。さまざまな事業に多角化している企業の株価は、いわゆる「コングロマリットディスカウント」により、低迷する場合が多い。また、少しでも余剰を許容している兆候があれば、その会社はほぼ確実に、マーケットとアクティビスト(物言う株主)によって罰せられる。

 しかしながら、多角化と余剰は、ショックによるダメージを和らげるための強力な手段になりうる。ある事業分野で打撃を被っても、他の事業分野が業績を伸ばして、埋め合わせられる可能性があるのだ。

 プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、コロナ禍でパーソナルケア商品の売上げが落ち込んだが、清掃・消毒関連商品の売上げ増で補完することができた。これに対して、ゴールドジム、アビアンカ航空、ブルックス ブラザーズといった企業は、多角化が不十分だったために大きな打撃を被り、最終的には破産に追い込まれた。

 インド有数のフードデリバリーサービスを運営するスタートアップ企業のスウィッギーは、500都市に16万店を超すレストランを網羅したプラットフォームを築いていた。ところが、コロナ禍でロックダウンが始まると、デリバリーも含めてレストランの売上げは50%以下に落ち込んだ。

 スウィッギーは、伝統的な着席型レストランだけをデリバリーのパートナーにするビジネスは極めて脆弱だと気づいた。これに対応するため、屋台の飲食店にサービス対象を広げる取り組みに着手し、最終的には3万6000以上の屋台をプラットフォームに加えた。

 屋台の料理を配達するビジネスでは、着席型レストランの料理を配達するような利益は出ないが、危機の時には貴重な「余剰」を生み出すことができ、社会的意義もあった。その結果、スウィッギーの売上げは、コロナ前の90%の水準まで回復した。

 原則4:ヒエラルキーよりもエンパワーメントを優先する

 システムが最大の脆さを見せるのは、そのシステムの最も弱い部分だ。ヒエラルキー型組織の場合、最も弱いのは組織のトップである。

 これに対して、エンパワーメント(権限移譲)がなされているチームは、本質的に強靭だ。分権的な性格を持っているため、一度の打撃や危機によってすべてが倒れることはない。そのカギとなるのは、オープンで頻繁な情報の流れを確保して、全員が共通認識を抱けるようにすることだ。

 世界最大の動物用医薬品企業であるゾエティスは、今回の危機下でこのアプローチを採用した。

 同社は、過去最大の新製品として犬用医薬品を売り出そうとしていた矢先に、コロナ禍の直撃を受けた。サプライチェーンの混乱、マーケティングの遅れ、試験施設や研究所の業務時間短縮をはじめ、さまざまな問題が生じて、新製品のローンチが脅かされた。

 これに対応するため、同社のCEOは世界45カ国の地域リーダーに対して、最も適切と考える方法で新製品をローンチする裁量を与えた。たとえば、ソーシャルディスタンシングに関する規制は地域によって大きく異なり、防護服の着用に関するルールもまちまちだからだ。

 さらに、現場レベルの従業員やマネジャー、チームにまで権限が移譲されていった。「自分が適切だと思う方法で対応するように」と言われたのである。

 現場の従業員が裁量を発揮できるように、データ主導の意思決定を優先し、組織の誰もが、新型コロナウイルス感染症に関する最新情報を確認できるダッシュボードを利用できるようにした。