●加速してショックから逃れる:学習とモジュール性
ショックから立ち直るには、オペレーションの要素(リソースの分配を見直し、再編成する能力)と、組織文化の要素(失敗を許容する姿勢を育み、リスクを取る行動を奨励し、学習することが報われる環境をつくる能力)が必要だ。極めて不確実性が高い環境で業績を上げるには、こうしたことが大きな意味を持つ。
原則5:非難よりも学習を優先する
よく知られている通り、リスクを取る行動を奨励し、失敗を許容する組織文化を持つ組織は、そうでない組織に比べて、素早く前に進むことができる。失敗した時に批判されると、人はリスクを取ろうとしなくなる。危機の時には、それが致命的な問題になりかねない。
中規模のグローバルなITサービス企業であるイーバリューサーブは、インド各地に拠点を持つ。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、インド政府が事前通知6時間で厳しいロックダウンを実施した時、同社は従業員3000人のほぼすべてを在宅勤務に切り替えざるをえなくなった。
この移行により、社員のウェルビーイングと士気に悪影響が及ぶ可能性が生じた。自宅環境はストレスが大きく、仕事をするのに適していない場合が多いからだ。そこで、同社は「非難しないこと」を旨とする組織文化を奨励するために、いくつかの制度変更を行った。
従業員のメンタルヘルスとウェルビーイングに関わる取り組みも始めたと、同社取締役のティモ・ヴァトーと共同創業者のマーク・フォレンワイダーは筆者らのインタビューで語っている。たとえば、モチベーションを維持するために「議題のない近況報告ミーティング」を設けているという。
また、従業員の学習と適応を奨励するために、インセンティブ制度の変更を行った。その結果、ロックダウン期間中も、従業員と顧客の流出はほとんどなかった。
原則6:リソースの配分を固定するよりもモジュール性と移動性を優先する
危機の時は、未来の展開を予測するのが難しい。そのため、リソースの有効な配分を事前に計画するのは、容易なことではない。したがって、リソースをモジュラー型ないしはモバイル型にして、必要に応じてリソースを再編成したり、移動させたりできるようにすることが重要になる。
リソースのモジュラー化の実践例としては、「パラノイド・ファン」アプリを挙げることができる。スタジアムでスポーツを観戦している人が、座席まで食べ物を届けてもらうために利用するアプリだ。
しかし、コロナ禍でライブイベントの開催が大幅に制限されると、このアプリを用いるユーザーはいなくなった。
そうした時、運営会社の創業者であるオーギュスティン・ゴンザレスは、ニューヨーク市のフードバンクの前に長蛇の列ができているのを目に留め、アプリのマッピングとデリバリーの技術を転用することを思いついた。
この会社は「ネピジュン」という新たなアプリをリリースし、フードバンクがメニューとデリバリーのルールを設定し、ユーザーが近隣で活動しているフードバンクを探せるようにした。