再生には全面的な投資が必要

 9.11でFDNYが失った隊員343人と、その後の退職者が築いた経験を合わせると、4400年分になる。元FDNY署長のサル・カッサーノは「貿易センター(の崩壊)後の12~13年の間に、7000人ほどの消防隊員が新たに加わった」と述べた。「基本的に消防隊員全体を一新した」

 その一方で、FDNYに長く勤務してきた隊員らは、署の再建のために退職を延期した。ケリー・ケリー元主任医務官は、9.11前まで20年以上勤務していた。「辞めようと思っていたが、9.11が起き、明確に残る理由があった」とケリーは話した。

 FDNYは失ったものを補填するために、研修や指導プログラムを拡大しなければならなかった。消防学校の新人研修プログラムは13週間から18週間に、新任副隊長の研修は4週間から6週間に(多くのリーダーシップ開発を含む)、新任隊長の研修は1週間から4週間になった。新任チーフの研修は、外部からのリーダーシップ指導を含むように改められ、全体の期間も8週間と大幅に延長された。

 退職をとりやめた隊員の多くは幹部になった。「誰もが、従来に比べて2、3年早い任務をこなしていた。準備ができる前に」と、元チーフのエド・キルダフは言う。

 2003年、FDNYはコロンビア大学国際公共政策大学院と提携して、戦略的計画からコミュニケーション、プロジェクトやパフォーマンスの管理まで、あらゆることを教育する「ファイアオフィサー・マネジメント・インスティチュート」(FOMI)を設立した。

 米国海軍大学やウエストポイント(陸軍士官学校)での研修に参加する人材を選抜し、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのリーダーシップ・アンド・チェンジマネジメント・センターとの関係も構築した。

 2016年までに、FDNYは劇的に変化した。それまでの幅広い投資が実を結んだのだ。420万ドルを投じて最新のシミュレーションセンターを新設し、データ分析を用いて火災リスクのスコアを算出し、検査対象となる建物の優先順位を決定するようになった。

 また、ニューヨーク市警察(NYPD)など他の組織との共同訓練や、部隊間や市の担当部門との連携を図るための指揮系統の変更、現場のプロトコルの見直し、通信技術の刷新、海洋部門の再建、消防隊員とその家族に対するサポートの強化なども行った。