
コロナ禍で多くの女性が退職を余儀なくされたことから、企業の経済活動が加速するともに、女性の雇用が元のレベルに回復することを願うのは間違いではない。ただし、単に組織を「元の状態」に戻そうとすれば、企業は大きな機会を逃すことになる。優秀な人材の獲得だ。コロナ禍で実証されたリモートワークの効率性と、優秀な女性が抱える優先順位を踏まえれば、柔軟な就労形態を導入することで、ジェンダー平等を推進しつつ、自社の成長を加速する人材を採用し、実際に活躍してもらうことができる。本稿では、女性が労働市場に等しく公平に参加することを推進し、ビジネスの成長につなげるために、企業はどのような行動を起こすべきか論じる。
コロナ禍によって「シーセッション」と呼ばれる現象、すなわち家族のケアのために多くの女性が離職に追い込まれる事態が生じた。そのため、女性の労働市場参加率がコロナ禍前と同じレベルまで回復することに、多くの期待が集まっているのは当然のことだろう。
しかし、このアプローチは想像力の欠如と深刻な機会の逸失につながると、筆者らは考えている。
あなたの組織ではもっと多くのことができるのに、ただ過去の状態に「回復すること」で満足しようとするのはなぜだろうか。
これを機に、自社の仕事のやり方を、柔軟性、透明性、そしてイノベーションに向けて全面的にピボット(方向転換)をしてはどうか。また、リモートワークの効率性と、仕事を探している優秀な女性の優先順位を踏まえて、ジェンダーに関するダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)を、すべてのリーダーシップレベルでゼロから見直してみてはどうだろう。
2021年1月時点で、米国では約300万人近くの女性が、労働力人口から脱落した。これにより、女性の労働市場参加率は33年振りの低水準に落ち込んだ。
マッキンゼー・アンド・カンパニーとオックスフォード・エコノミクスは2021年2月、女性の雇用がコロナ禍前のレベルに戻るのは、早くても2024年以降になるとの見方を示している。
しかし、この推計は、新型コロナウイルスの変異体が急拡大することで、チャイルドケアや対面授業をストップさせる可能性があることを、まったく考慮に入れていない(そして、女性は男性よりもはるかに、育児という義務か、キャリアの機会かという選択を強いられてきた)。
女性の雇用回復が思うように進んでいないのは、2021年6月に職探しを再開した女性の97%が、7月になっても仕事が見つかっていない事実によって確認できる(男性の場合は、わずか12%だ)。また、失業率は依然として、黒人とラテン系の女性で最も高い状態が続いている。
このようなエビデンスは何を物語っているのだろうか。職場ではまさに、優秀な人材をめぐる激しい獲得競争が起きようとしているのだ。
女性は、知能指数(IQ)や感情的知性(EI)、創造性、そしてリーダーシップスキルといった重要な資質を有するトップ層の少なくとも半数以上を占める。このようなビジネスパフォーマンスの主要領域におけるジェンダー分布には、微妙な違いはあるものの、女性は労働力人口で最も優秀とされる層の50%以上を占めている。
男性よりも女性が多い企業、なかでも特にリーダーのポジションに男性よりも女性が多い企業は、そうでない企業よりも優れた業績を上げる。コロナ禍の時には、特に女性リーダーが持つ力と実績が世界中に示された。女性が率いる国は男性が率いる国に比べて、総じて優れたリーダーシップを発揮したといえるだろう。
組織が、ジェンダー平等と人種平等に関する立場を明らかにして、柔軟性のあるリモートワーク環境を推進し、透明性を確保しながら男女同一賃金の実現に努め、質の高いチャイルドケアのために独創的な解決策を示すことによって、「女性従業員に優しい企業」として高い評判を確立できれば、この戦いに勝利するだろう。
一方、いつまでも20世紀の職場規範にしがみついている企業は、消滅していく。競合企業の感度の低さと動きの鈍さが、これほど簡単に利用できたことはない。
これを実行に移すには、企業は迅速かつ積極的に行動を起こす必要がある。女性が労働市場に等しく公平に参加できる経済環境に変えるために、最も重要だと考えられる筆者らの提言を以下に挙げる。