(5)メンタルヘルスの治療を受けることを検討する

 当たり前のことに聞こえるかもしれんが、鬱状態に陥っている時に生産性を高める一つの方法は、鬱状態でなくなるか、鬱のレベルを下げることだ。

 世界中でほぼ共通しているといえるかもしれないが、人は自分のメンタルヘルスの問題について治療を受けると決断するまでに、あまりにも時間をかけすぎている。私が臨床心理士の仕事をしていた時、クライエントに「いつから、その症状はありますが」と尋ねると、数カ月や数週間ではなく、何年も前からだと答える人ばかりだった。

 鬱に対処するには、認知行動療法(CBT)やアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)、薬物療法をはじめ、さまざまなアプローチが存在する。マルチビタミンやミネラルのサプリメントも、ストレスに対してレジリエント(再起力)を持つための簡単な方法の一つだ。鬱状態のために食習慣が悪化した時は、特にそうだ。

 自己批判する傾向が強い場合には、自分に思いやりを持つセルフコンパッションのスキルを学ぶことも、鬱やストレス、不安に対する極めて有益な対処法になりうる。思考の反芻は、気分や生産性、問題解決能力を害するため、それが起きていることを認識し遮断するスキルは、習得すべき重要な能力だ。

 このような療法は、鬱の感情が自分の機能にいかに影響を与えているかを理解する助けにもなるだろう。

 たとえば、人は鬱の感情を持つと対人関係を拒絶する兆候がある。というのも、それが進化を遂げた目的の一部であり、進化論的には、自分の部族から排除されることは命の危険を意味するからだ。

 現実の世界では、この反応がいつも助けになるとは限らない。仕事では、周囲の誰かがサポートしてくれない、自分のことを好きではない、自分の才能や能力を認めてくれないと感じた時には、たとえ実際にはそうではない場合であっても、いら立ちや敵意が生じ、それが上司や同僚、顧客といった誤った方向に向かう形で顕在化しうる。

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 鬱状態に陥っていたり、悲しみや不安といった感情を抱いていたりする時は、自分が理想とするような生産的な状態にはなれないことがある。そうした時は、自分自身に猶予を与えよう。

 必要な時には、自分に思いやりを持つための5分間のメディテーション(瞑想)を試してみるのもよいだろう。自分自身に寛容になりつつも、本稿で紹介したアドバイスを試してみてほしい。

 鬱状態にあると、「アドバイスをくれたといっても、どうせ自分には役に立たないだろう」といったネガティブな期待につながることが多い。そのことを知っていれば、この罠を回避して、与えられた対処法を自分実験してみることができるはずだ。


"How to Get Something Done When You're Feeling Down," HBR.org, October 20, 2021.