「マインドビルド」によって
リーダーシップの強大な力を解き放つ
問題となっていたマインドトラップをいったん崩せたら、自分を前進させる新たな視点を構築して、それをしっかりと固定することが欠かせない。これが「マインドビルド」だ。
それにはまず、自分の可能性をあらためて自由に思い描き、それを行動に落とし込む。古い考え方や行動様式に戻ってしまわないように、この新しい視点を自分の中に深く、強く根づかせる必要がある。
筋肉と同じように、新しい考えとマインドセットも訓練によって強化しなければならない。また、それを実際の行動とリードする方法に組み込む必要がある。新しい思考方法、新しいあり方、そして新しい物事の進め方を学習し、実践する必要があるのだ。
筆者はクライアントのマインドビルドを支援する際、想像力と視覚化する能力を高めるツールを用いている。たとえば、チャーリーの場合には、例の教授と綱引きをしている場面を想像してもらった。それぞれがロープの両端を持ち、反対側に引っ張り合うのだ。
次に、筆者はチャーリーに対して、途中で綱を手放す場面を想像してもらった。すると、教授には何が起きるだろうか。尻餅をついて、後ろに倒れる。そこでさらに、教授と対話し、彼が教えてくれたことに感謝しつつも、自分は自分の道を行かなくてはいけないと告げる場面を思い描いてもらった。そして、教授のもとから立ち去る場面までを具体的に想像するのだ。
このようにして、チャーリーは教授の影から自分を解放することができた。そこで、自分自身が人間的なリーダーとして成功した未来の姿を想像したうえで、次の問いに対する答えを考えてもらった。自分がいかに振る舞うか、従業員にどう対処するか、自分は何を感じるか、そして自分の人生はどのようになっているか、だ。
マインドビルドには、日々の練習をルーチンとして設定することも欠かせない。例として、筆者は、コーチングの第一人者であるマーシャル・ゴールドスミスの実践法が極めて有効だと考えている。それは、自分がなりたいと思う人間的なリーダーの振る舞いや行動をリストアップして、毎日の終わりに、どれくらい実践できたかを自問するものだ。
そうすることで、自分にとって重要なことは何かをすぐに思い出すことができ、日々の忙しさの中で自分を見失うことがなくなる。やがては、新しい習慣として根づくことになるだろう。これまでとは異なる考え方、異なる行動、異なる形のリーダーシップに慣れ、新たな視点が第2の天性になるのだ。
ただし、そこに至るまでには、継続的な練習が必要となる。毎日、自分の状態を確認し、本当に正しい道を歩んでいるかを評価し、そこから外れている時は軌道修正の計画を練らなければならない。
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マインドトラップからマインドシフト、そしてマインドビルドへの道程は、それを成し遂げた人々に深いインパクトを与え、まずは自分自身に、そしてリーダーシップの方法に、深遠かつ恒久的な変化をもたらす。
ところで、チャーリーはどうなったのか。みずからのマインドトラップを発見して、新たな視点に切り替えると、彼は自分の役割と自分自身を、それまでとはまったく異なる視点で見るようになった。心から相手の話に耳を傾ける方法や、従業員と個人的かつ自分らしい方法で心地よいつがなりを築く方法を少しずつ学んだ。何が答えなのかがわからない時は、それを認められるようになった。
自分の会社が直面する課題をオープンにする一方で、従業員とともに乗り切れるという自信も示せるようになった。チャーリーは、コロナ禍と経済的混乱という最悪の時期に、人間的なリーダーとして従業員と会社を導くことに成功した。のちに彼は、さらに規模の大きな会社のCEOに就任した。
人間的なリーダーは、周囲の人々の人生や自分がリードする組織、そして世界に深遠かつ恒久的な変化をもたらす。このマインドトラップからマインドシフト、マインドビルドに至る旅路は、過去のリーダーと、現代と未来の課題を乗り切ることに成功するリーダーとを分かつものだ。
あなた自身も、内なる人間的なリーダーを解き放ち、世界をもっと明るく照らすことができる。
"Leaders, Stop Trying to Be Heroes," HBR.org, October 25, 2021.