●「スコープクリープ」を抑制する
オフィス復帰時のバーンアウトは、単に過労が原因の場合もある。パンデミックの間に多くの役割が変化し、労働者は仕事上の責務が増えたと報告している。これは小売りとeコマースの分野で特に顕著で、それらの業界で働く従業員の93%が「ジョブクリープ」(当初の想定を超えて仕事が拡大すること)を経験していた。
オフィス復帰にあたっては、一時的だと思われていた仕事の負担が、実はこのまま固定化されるのではないかという懸念を抱く従業員もいる。彼らは、我慢の限界を超えてしまうかもしれない。
たとえば、シカゴのスイミングプール会社で最高調達責任者兼プロジェクトマネジャーとして働いていた女性は、最初のロックダウンで自分の責務が膨れ上がった。管理業務が増えたことで勤務は深夜に及び、制限が緩和された後もそれが常態化していた。数カ月後、彼女は競合のオファーを受けて転職した。
従業員のバーンアウトや離職を防ぐには、調査を行い、チームの現在の役割を再評価することだ。従業員に現在の日常業務とパンデミック前の役割とを比較してもらい、仕事の範囲がどれだけ拡大しているかを確認する。そして、パンデミックに関連した責務が一時的なものか、恒久的なものかを従業員と一緒に判断する。
念入りに調査を行ったうえで、変化する組織のニーズを評価し、新たなスキルセットを特定して、報酬と肩書きを実情に合わせて更新することで、大きな価値をもたらす人材を確保することができるだろう。
●仕事を中断されないディープワークの時間を設定する
パンデミックの影響で、労働者はこれまで以上にデジタルコミュニケーションに頼るしかなく、気を散らされる要因が増えている。
世界16都市の従業員のメール310万通の分析によると、平均的な従業員はパンデミック前と比べて勤務時間が1時間近く長くなり、メールの回答や会議に費やす時間が増えたという。
オフィスワーカーは平均して3分ごとに仕事を中断され、仕事を再開するのに23分かかるとされている。アナリストの推計によると、その中断による米国経済への損失は年間5880億ドルに上る。
出社勤務を再開する際は、従業員が戦略的な優先事項に集中できる環境を整えなければならない。仕事が中断されない時間を確実に確保するために、明確な方針を採用すべきである。
フェイスブック、エアビーアンドビー、アサナなどの企業では「ノーミーティングの水曜日」、シティでは「ズームフリーの金曜日」を導入している。アトラシアンでは、メールや電話への応答、会議への参加を免除される「仕事を片づける日」を従業員が宣言することができる。
会議のない日を設けたとしても、翌日のカレンダーで会議への招待が倍になっていては意味がない。これについては、会議の文化そのものを見直すことで、より多くの時間を解放できるはずだ。予定されている会議はすべて必要なものだろうか。招待された人は全員、その会議に欠かせないのだろうか。