
同僚に感謝を伝えることの重要性は広く知られている。感謝の気持ちを具体的な言葉で伝えることで、相手が「自分には価値がある」と感じられるようになるだけでなく、自分自身のウェルビーイングが改善したり、ストレスが低減したり、レジリエンスが形成されたりする。さらには、職場で不当な行為が減ると研究結果もある。では、感謝の気持ちを適切な方法で伝えるには、どうすればよいのか。本稿では、さまざまな研究結果から最善の方法を挙げ、実際にどのような恩恵を得ることができるかを紹介する。
私たちは皆、礼儀正しく、思いやりがあり、親切な人々に囲まれた職場で働きたいと思っている。そのような職場文化を築くうえで、同僚に感謝の意を示すことは大切な要素である。
しかし、どのようにすれば、適切な方法で感謝の気持ちを伝えることができるのか。感謝を表現する最善の方法とは何だろうか。職場で感謝の意を示すことで、具体的にどのような恩恵を得ることができるのか。
幸いなことに、『ハーバード・ビジネス・レビュー』では、このテーマを何度も取り上げている。長年にわたり、特にチームで一緒に働く相手の価値を認め、感謝することの重要性について、その裏付けとなる研究を紹介する論考を数多く掲載してきた。
筆者がアーカイブを掘り起こしたところ、最良のアドバイスが浮かび上がってきた。
私たちはなぜ、感謝の気持ちを表すべきなのか
研究結果から明らかなのは、感謝することが自分自身のためになるということだ。それによってウェルビーイングが改善し、ストレスが低減し、レジリエンスが養われる。そして、忍耐力さえも高まるという。このところ、誰もがよりいっそう必要としている力だ。
また、周囲の人々にとっても有益だ。感謝の気持ちを表すことで、自分自身がよりよい同僚と見なされるからである。
「人は感謝の気持ちを示されると、他者を助けるためにみずから進んで力を尽くし、自分が犠牲を払ってでも忠誠を貫こうとし、自分だけが多くの金銭を手にするのではなくパートナーと利益を平等に分けようとする」と、ノースイースタン大学教授で、感情が決断と行動に与える影響を研究するデイビッド・デステノは述べている。
あなたが同僚に感謝の思いを伝えると、同僚は自分の価値を認められたと感じ、進んで助けてくれるようになる。ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノとペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のアダム・グラントは、このテーマに関する一連の研究を行っている。
たとえば、ある研究では、履歴書に添付するカバーレターを学生のために校閲した人が、事務的な受領のメッセージか、感謝の気持ちが書かれたお礼のカードのどちらかを学生から受け取るようにした。
学生が再び校閲を依頼した時、以前に感謝された人が引き受ける確率は、感謝されなかった人に比べて2倍高かった。言い換えると、感謝されなかった人の場合、その後に再び力を貸す確率は半分になったのである。
単に感謝の気持ちを持つだけでも、職場文化にポジティブな影響を与える。感謝に関する研究の中でも筆者が特に気に入っているのが、感謝することによって職場での不当な行為が減少するというものだ。
研究では、参加者を2つのグループに無作為に分け、2週間にわたり勤務日の日記をつけてもらった。1つのグループは職場で感謝を覚えた相手や出来事について毎日書き、もう1つのグループは単にその日の記録を書くように指示された。その結果、前者のグループでは「自制心が増したと回答し、同僚の評価でも職場での無礼な行動やゴシップ、仲間外れに関与する頻度が減っていた」というのである。
人はストレスが溜まると、周囲の人々に対して心ない接し方をしがちだ。それを考えると、いまの状況では特に、単に感謝の思いを抱くだけではなく、それを実際に表現することが大切だ。この2年間の先の見えない混乱した状況によって、私たちの多くは燃え尽き、仕事の負荷が高まり、自分のやることにどれだけの価値があるのか、わからなくなっているからだ。
いまこそ、あなたの感謝を同僚に示すべき時である。しかし、どのようにすればいいのだろうか。