
コロナ禍でリモートワークが浸透し、オフィス再開後もハイブリッドワークが導入される中、バーチャル環境で従業員同士の結び付きを確保する必要性が論じられてきた。しかし、実はもっと深刻な問題が進行している。組織と顧客の結び付きが失われ、財務、HR、法務、あるいはIT部門といった顧客と直接関わりのない部門で「顧客が自社の生命線であること」が忘れられがちだ。これは組織のサイロ化を招くだけでなく、いずれは組織の競争力が失われる。本稿では、そのようなシナリオを回避するために、顧客と直接関わりを持たないチームに顧客の存在を認識させる3つの方法を紹介する。
ある中堅銀行の財務部門、HR部門、法務部門では、数カ月間にわたり支障なく在宅勤務を実践できていることを受けて、在宅勤務と出社勤務を併用するハイブリッドモデルを恒久的に採用することを決定した。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにリモートワークが浸透したことで、オフィスへの出勤は高い生産性を発揮するための必須条件ではないことが証明されたといえるだろう。
従業員の中には、全面的なリモート勤務を選択した人もいれば、週に数日出社することを選択した人もいた。オフィスで仕事をすることを望む人のためには、安全なオフィス環境が用意された。
最初のうちは、このやり方でまったく問題がないように見えた。生産性も高い水準を維持できていたからだ。しかし数カ月が経つと、日々の会話から何かが欠けていると感じ始めた。「何か」というよりは、むしろ「誰か」が欠けていた。
あるオペレーション部門のリーダーはそのことを指摘し、次のように述べた。「以前であれば、会議とは顧客に関する会話から始めるものでした。いまは顧客が話題に上ることがほとんどありません」
このような現象が起きているのは、この会社だけの話ではない。
バーチャル環境においてチームメンバー同士の結び付きを確保する必要性については、これまでさまざまに論じられてきた。しかし、組織が顧客との結び付きを失うことは問題として気づかれにくい一方で、その影響はおそらく同僚同士の結び付きを失うことより深刻だ。
実際に、筆者らのクライアントがどのような状況にあるかを観察したところ、次のことが明らかになってきた。
リモートワークやハイブリッドワークに移行する前、組織のあらゆる部門で、従業員のほとんどが顧客に目を向けていた。顧客と接点を持つ職種でなくとも、顧客と接する同僚といつも話をしていた。顧客について話す際は、誰もが自社の顧客はどんな人たちで、どのようなニーズを持っているかをはっきりと理解していたのだ。
また、コロナ禍の直撃を受けた時には、従業員が力を合わせて難局を乗り切ろうとした。事業継続が最優先であり、各チームが一心不乱になって顧客対応に取り組んだ。
しかし時が経つにつれ、顧客と直接交流することのないチームでは、顧客との結び付きが失われていった。オフィスの廊下で同僚と偶然会って、具体的な顧客のエピソードについて話す機会が消えてしまったからだ。エレベーターで営業担当者と一緒になったり、社内のカフェテリアでカスタマーサクセス担当者と席が隣になったりする機会もなくなった。
このような環境では、どれだけ意識の高い従業員でも、顧客が自社の生命線であることを忘れかねない。社内の管理部門は、各部門が設定した指標や課題ばかりを重んじるようになりがちだ。
そうなると短期的には、組織がサイロ化するおそれがある。長期的には、顧客が視野に入らず、イノベーションで競合企業に後れを取り、最終的には市場の変化から取り残されるリスクが生じる。
顧客とのつながりを失った会社にいかなる運命が待っているかは、百貨店のシアーズ、レンタルビデオ・DVDのブロックバスター、転職情報サイトのモンスター・ドット・コムの例を見れば明らかだろう。
しかし、このようなシナリオを回避することはできる。
重要なのは、管理部門のメンバーが顧客の存在をリアルに感じられるようにすることだ。リーダーがそのための努力を払えば、管理部門と顧客との間に感情的なつながり、そして実務的なつながりが生まれる。
そうすれば、自社の「使命」に関する認識を組織全体に浸透させることができるだろう。その結果、従業員エンゲージメントが高まり、より野心的なイノベーションが実現し、成長ペースが加速し、その成長が持続することも明らかになっている。
本稿では、顧客と直接関わりを持たないチームに、顧客の存在をリアルに感じさせる3つの方法を紹介しよう。