(2)意思決定の際に「顧客にどのようなインパクトを与えるか」を問う
ある意思決定が顧客とは無関係に見えたとしても、顧客中心主義のレンズを通すことで物事の全体像が見え、その意思決定により顧客にどのようなインパクトが生じうるかを深く考えられるようになる。
筆者らは最近、ある金融サービス会社のチームとともに仕事をした。チームは自社のキャッシュフローを改善する役割を課されていた。以前から業務プロセスの停滞に悩まされ、チームがリモートワークに移行してから、その問題はさらに悪化していた。
チームメンバーが話し合うと、すぐに一つの結論に達した。ベンダーに対して、支払いを60日後とすることに前もって同意してもらえばよいと考えたのだ。一見すると、理にかなったアイデアだと感じられた。それにより自社のキャッシュフローが改善し、顧客には何の影響もないかのように思えた。しかし、本当にそうだろうか。
チームメンバーが「顧客にどのようなインパクトを与えるか」という観点から検討すると、このプランには致命的な欠陥があることに気づいた。たとえば、この金融サービス会社では最近、あるITベンダーに依頼し、同社の支援を得て、社内システムの大規模な変更を進めようとしていた。プロジェクトの一環として、全従業員に新システムに関する研修を実施する予定だった。研修対象には、顧客と直接関わる従業員も含まれていた。
もしベンダーへの支払いが60日先になるならば、相手先はまだ支払いを受けていないのに、自社のスタッフに対価を支払わなくてはならない。それでは最も優秀な研修担当者を派遣してこない可能性がある。要するに、この金融サービス会社は質の高いサポートと研修を受けられなくなるのだ。
チームが十分なサポートと研修を受けられなければ、顧客を効果的に支援できなくなる。顧客とは無関係に見えたアイデアが、最終的に顧客関係を損ないかねないことにチームメンバーは気づいたのだ。
その後も、チームでは難しい話し合いが続けられた。そして長い議論の末、画期的なアイデアに行き着いた。ベンダーが業務を完遂させるまでの間、段階的に支払いを行うシステムを考案したのだ。このやり方であれば、キャッシュフローの深刻な問題を回避し、ベンダーとの関係を悪化させることなく、顧客の期待にも応え続けることができる。
顧客と直接関わりのないチームが何らかの意思決定を下したり、プロジェクトを評価したりする際、「顧客にどのようなインパクトを与えるか」と問うことで思考の枠組みが大きく変わる。
このシンプルな問いは、いかなる意思決定やプロジェクトにも有効だ。筆者らの経験では、管理部門のチームがこの問いを常に意識することで、自社のマーケットポジションを向上させるという方向性に沿った判断を下せるようになる。