感情の不一致によって
オーセンティシティを守れない時
いかなる動機があるにせよ、本人が必死に努力しても、その根底にある真の感情が漏れ出してしまい、その結果、言動と感情の不一致が生じ、オーセンティックでない人物に見えてしまうことがよくある。この点をまず認識しておくことが重要だ。その理由は主に3つある。
(1)状況的な葛藤
その場の状況と直接的に関係する課題や矛盾する要因があるために、本来表現すべき感情を表すのが難しい場面は多々ある。たとえば、客に怒鳴りつけられている状況で、業務上必要だとしても、心の底から「笑顔のサービス」を提供するのは無理な話だろう。また、このところ成果を上げられていない部下のせいで自分の仕事が増えている時に、その部下を心から応援する気持ちになるのも難しい。
(2)波及効果
その場の状況にまつわる感情的な問題がなくても、ある瞬間の感情が別の瞬間にも波及するケースはよくある。以前にやり取りをした際の強烈な感情は、そのやり取りが終わったからといって、即時かつ自動的に消えるわけではない。その結果、適切でない場面でも、まだ当時の感情を引きずってしまうことがある。たとえば、マネジャーが今後のビジネスチャンスに関する興奮を伝えたいと思いつつも、関係のない理由(通勤がつらいなど)でストレスを抱えているといったケースだ。
(3)コミュニケーションチャネルの問題
個人の感情が本心からの思いであっても、近年はテクノロジーに起因するコミュニケーションの障壁により、その感情が本心だと認識されないケースがある。特に最近はコロナ禍で働く場所が変化したため、多くの仕事のやり取りが遠隔で行われている。ただし、バーチャルなコミュニケーションでは感情伝達の効率性が損なわれやすいことが、重要な研究で示されている。
では、これらの状況で本心を伝えられないという事態を避けるためには、どうすればいいのだろうか。先行研究から、その答えは明らかだ。
理想的な解決策は、自分の現在の感情と、その場の状況で必要とされる感情に意識を向け、そのうえで感情と状況を一致させるべく、心の奥底の感情を変化させるために努力をすることだ。もっとも、それほど簡単に感情をコントロールできるのなら、大半のセラピストは仕事を失っていることだろうが。