
オーセンティシティ(自分らしさ)は仕事の成果を左右する重要な要因だが、いつでも本心を明かすことが適切とは限らない。実際は不機嫌でも笑顔が求められる状況はある。逆もしかりだ。重要なのは、あなたの言動に偽りがないと「認識される」ことだ。筆者の研究から、どのコミュニケーション媒体を選ぶかで、受け手の印象が大きく変わることが判明した。本稿では、心からの感情を適切に表現したり、偽りの気持ちを本心だと思わせたりするために、状況に応じた最適なコミュニケーション方法を紹介する。
経営幹部や学者の間でよく使われるリーダーシップ関連の流行語の一つに、「オーセンティシティ」(自分らしさ)がある。メタのシェリル・サンドバーグCOOは「リーダーは完璧さよりもオーセンティシティを追求すべきだ」と強調し、元スターバックスCEOのハワード・シュルツは「永続する企業はオーセンティックな企業である」と語っている。
実際、さまざまな研究でも、フロントラインワーカーからリーダーまで、あらゆる人の仕事の成果を左右する要因として、オーセンティシティの重要性が確認されている。逆に、自分らしく振る舞っていないと見なされると、信頼や人間関係が壊れ、顧客ロイヤルティが損なわれて、業績評価が悪化し、組織の利益が減少することも示されている。
とはいえ、オーセンティシティが重要だとしても、それを育み、維持することが難しい場合もある。コミュニケーションを例に挙げよう。「オーセンティックである」(偽りなく本心を明かしている)と「認識される」のが理想的ではあるが、実際に「常にオーセンティックに振る舞う」と災いが降りかかる恐れがある。
たとえば、結婚間近のパートナーがいて、その日の朝にプロポーズを承諾する返事をもらったマネジャーが、従業員を解雇する時に喜びを振りまいている光景を想像してみてほしい。あるいは、経営幹部が会社の新たな多様性イニシアティブを打ち出す場面で、我が子が大学を中退したばかりだという理由で、不機嫌そうにメッセージを発したらどうなるだろうか。
このような場面では根底にある本音を隠して、「オーセンティックでない」態度を取ることがある。その背景には、本心を明かすことがその場の状況にふさわしくないと気づき、相手のためを思って行動する向社会的な動機があるのかもしれない。
こんな時、リーダーは次の2つの選択肢のいずれかを選ばなければならないという困難な状況に置かれがちだ。(a)「本心を明かさない」と見なされて不利益を被るリスクを冒してでも、業務上の必要性から、あるいは他者を思いやる手段として、実際には芽生えていない感情を表現する、(b)不適切な感情を表現することで不利益を被るリスクを冒してでも、本心を伝える。
特にハイブリッドワーク環境において、リーダーはこのやっかいな状況を、どのように乗り越えればいいのだろうか。